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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十三章 東の剣士
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東の剣士 -2

人垣をかき分けながら進むと、三人の若い男女からなるグループと、店員と思わしき男が店の前で押し問答をしていた。

彼らが衆目を集めていたのは、身なりが一目でわかる異国人だからだろう。いずれも見事な黒髪で、外套はこのあたりのものを着ているが、よく見るとサンダルや荷物入れなど、細かい身の回りの物がこの国では見られないものばかりだ。

女性を真ん中に挟んで、男性二人が護衛のような立ち位置で囲んでいる。


「若、ここまでです。軍人が着ました」

「ええい、言わなくてもわかっている」


右側にいた男が声をかけると、若と呼ばれた女性は腹立たし気に返事をする。どうやら撤収を試みる様相だが、僕は後々問題にならないように、一応誤解を解いておく。


「あ、あの、僕は軍人ではないですよ」

「む、そうなのか。周りの反応から、そう判断してしまったが・・・しかし、一般人でもあるまい」


右側の男が、切れ長の目を使って、僕をややぶしつけな視線で見る。三人の中では一番長身で、女性のような長い髪を結んでいる。安定した体幹は、武人のものだ。


「僕はSSLという組織にいるものです」

「SSL・・・」


若と呼ばれた女性と、左側の男が、首をかしげる。


「若、確か、自警団のようなものだったと記憶しています」

「そうか。では、SSLの者よ。我々は、店の中の品ぞろえを見たかっただけなのだが・・・店の男がそれを許してくれんのだ」


店員を見ると、胸の前でバツ印を作って首を振っている。


「悪いとは思うが、この国の人間でもないやつには、売れないよ。あんたもSSLならわかるだろう?」

「・・・」


確かに、店員の言わんとしていることはよくわかる。

知名度のあるコボル警備長が、スパイの同僚によって重傷を負わされたというニュースは、どこからともなく広がり、すっかり街の人の知るところとなっていた。今のところ異国の人間への排斥運動などは起きていないが、街の人々にも不安が広がっているだろうことは、想像に難くない。


「今は無理なようですね・・・。申し訳ないですが、首都全体がピリピリしているので、なかなか販売してくれないと思います」


「むう・・・」

「しょうがないんじゃないの?」


左側にいた短髪の男も、賛同する。こちらは、三人の中では一番焼けた肌をしている。リラックスした雰囲気で、店員との問答にも加わっていないようだが、マナに波やよどみほとんどない。つまり、どんなタイミングでも行動に移ることができる体勢をとっている。間違いなく腕が立つ。


「ピリピリしているとは・・・何かあったのか」

「えっ」


意外な質問が、女性から出てきた。

それこそ、異国の人に言えるわけがない。田舎者の僕は「異国」というものにあまり実感がわいてこないが、それでも国から給料をもらっている身としてスパイに対して警戒をしないわけにはいかない。ディランやラストのように、街の人に溶け込んで情報収集をする人間がいたのだ。あからさまな異国の人間には、おいそれと情報を与えるわけにはいかない。


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