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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第一章 山岳の戦い
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傷が癒えるまで -1

「というわけで、今のところ生存者は発見されていません・・・気を落とさないでね」


あれから二日。僕は入院生活を送っている。山での暮らしに比べて、相部屋の病室は騒がしいが、僕には過ぎた待遇だ。


「ありがとうございます。皆さんにもよろしくお伝えください」


そう言って、僕は目の前の女性に頭を下げる。

彼女の名前は、ララベル。馬車の中にいた金髪の女性で、槍を使って戦うそうだ。馬車では気づかなかったが、布に包んだ長物を肌身離さず持ち歩いている。長身で武力も高いため、男女問わず人気があると、コボルさんから聞いた。

まだ街になじめていない僕のところに小まめに差し入れや着替えを持ってきてくれているので、助かっている。金髪のロングヘアに容姿端麗、面倒見もいいとくれば、人気が出るのも当然だろう。


「そんなに気を使わなくてもいいのよ。一応、私たちの仲間なんだから」

「仲間・・・」


そう、僕は一時的な処置とはいえ、首都警備隊『SSL』に籍を置いているのだ。コボル警備長の付け焼刃のレクチャーによると、民間の人気は高く、この国の子供になりたいものを聞けば、解呪士かSSLのどちらからしい。そんな職にグレーな手続きをしてまで僕を入れてもらったのは、やはり彼らの中に、少なからず罪悪感があったのだろう。


「そうだ、リンゴ食べる? 剥いてあげるね」

「いえ、その、大丈夫です」


そろそろ、相部屋の男達の目線が厳しい。僕への熱心な介護を見て、さっきまで鼻歌を歌ったりカードをしていた人たちが、急に重病っぽく布団に入ったり、窓の外の枯葉を眺めたりしている。

ドンドンドン。木の廊下が音を立てて近づいてくる。これは、足音だ。


「ハイハイ、リンゴもいいけどね、シップの時間よ、シップ!」


銅鑼を叩いたかのような大声と共に、リンダ看護師長が現れた。ララベルと同じ金髪だが、こちらは大きなビア樽という形容がぴったりの女性で、手加減と容赦をしない仕事ぶりは、軍人やSSLのメンバーの恐怖の対象だそうだ。ララベルさんの気を引こうと仮病をしていた男たちは、サッと目をそらす。


「ちょっと待ってよ、リンダ。湿布を貼ってからじゃ、リンゴの味が分からなくなっちゃうじゃない」


ちなみに、二人は幼馴染だそうで、ララベルは物怖じせずに看護婦長にくってかかる。


「口に入れるのを止めるつもりはないよ。栄養は大事だからね。ただ、こっちは忙しいんだから、予定があるのよ。仕事の邪魔はしないでちょうだい」

「あら、レイル君も、味のしない病院食を乱暴に食べさせられるより、美味しいリンゴをゆっくり味わうほうがいいと思うけど」


そう、両腕が折れている僕の食事の面倒・・・強いて言うなら、その他もろもろの面倒をみてくれているのが、リンダ看護師長だ。


「何言ってんの、料理や家事もせずに槍を振り回すしか能がないくせに。あんたも湿布を胸に貼ったら、少しは膨らんで女らしくなってくるんじゃないのかい?」

「なななななんですって!言っておきますけど、あなたの胸はお腹のあまりみたいなものよ、人様に誇れるものじゃないんだからね!」

「そうは言っても、シップを乗せておけるスペースくらいは、あるのよね。誰かさんみたいに、鉄の胸当てが痛くて悩むようだと、大変よねぇ」

「くうううう!どこでそれをおおおおお」


リンダさんの方が、年上だけあって一枚上手のようだ。


「あの、僕、湿布は嫌いじゃないですから」


実際、ここの湿布はよく効く。マナを集めて固定する効果があるという薬草を練りこんであるらしく、打ち身や切り傷程度ならすぐに治るそうだ。僕の骨折も、早ければ2週間で添え木が取れるらしい。


「ほらほら、患者本人がああいってるんだ。見舞客は帰った帰った」


勝ち誇ったように、リンダさんが言う。


「レイル君・・・何か弱みでも握られているの?」

「そりゃ、看護師だからね!仕事上、色々と握るのは当然さ」


ガハハと、リンダさんが笑う。


「レイル君・・・思春期にこじらせると、色々大変よ・・・?」

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