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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十二章 スパイ
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スパイ -10

激昂したラストは、とびかかるようにサーベルを振り下ろす。

ララベルさんは脱力してそれを迎え撃つ。わずかに荒れた切っ先の動きを、ギリギリまで引き付けてからかわす。

だが、紙一重でかわしたはずの刃が、再びララベルさんの金髪を散らす。


(挑発は上手くいった。剣は乱れたはず・・・なのに、かわせない)


ラストの繰り出す剣の軌道が、わずかにズレて読めない。接近戦でのサーベルの連撃に耐え切れず、ついに柄で受けてしまう。鋼鉄の槍は、サーベルの刃ぐらいでは折れたりしないが、槍使いとしては屈辱だ。


「どうだ・・・どうだ!」


手ごたえを感じたのか、ラストの攻撃は勢いを増すばかりだ。ララベルさんは、僕の方へ衝突しないように、弧を描きながら後退していく。


「俺の、俺の攻撃は、アーツだ!」

「・・・そう。決定力の低いアーツね」


ラストが冷静にならないように挑発を続けながら、ララベルさんは距離をとろうとする。


(ナイフの怪我のせいで、槍を突き出すときに、痛みがある・・・)


わき腹を伸ばす動きをすると、自分の傷が大きく開いて激痛が走る。槍使いとしては、危険なハンディキャップだった。

ラストもそれを見抜いたのか、間合いの詰め方が大胆になってきている。


(このままでは、まずい。レイル君を待っている前に、私がやられてしまう)


槍を引く動きは、ほとんど支障がない事を確かめると、ララベルさんはもう一度脱力して集中する。

次にラストの出した首狙いの払いは、わずかに大振りになっていたが、決して緩んだ一撃ではなかった。


ララベルさんは、バックステップでやや大きくそれをかわすと、腕に集中させたマナを使い、槍を強く引いて、足元後方の石畳にぶつけた。槍の石突が石畳に衝突すると、ララベルさんが引いた方向の真逆に跳ね返った。


「なにっ!?」


跳ね返った槍は、人が体重を乗せた突きほどの威力はない。だが、人の筋肉と違い、

引く→引く力を弱める→突く

という筋肉の調節がない分、怪我をしているララベルさんの動きよりもわずかに早かった。さらに、腕の動きに突きへの初動がないので、相手はどうしても反応が遅れることとなる。


「ぐうっ!」


跳ね返った槍は、威力がそれほどあるわけではない。真槍とはいえ、ラストの腹筋にわずかに刺さっただけだった。だが、ラストはその槍を思わず掴んでしまう。

それが、勝負の分かれ目だった。


「おおおっ!」


ララベルさんは瞬時に槍を掴みなおすと、体重を一気にかけて突進する。腕に残ったマナと脚力を使って、ラストの体を浮かせると、槍が刺さったまま壁まで走る。

ラストは、自分の腹に刺さった槍を抜こうと両手で槍を掴むが、間に合わずにそのまま壁に叩きつけられた。

ズブリと、槍の穂が体に侵入していく。


「ゲフッ・・・お、お前・・・」

「隠し玉を持ってるのは、あなただけじゃないの」


深々と胃を貫かれたラストは、口にこみあげた多量の血を吐きだした。


「あなたの技のトリックは、見抜いたよ。意図的に筋肉の動きとずれたマナを体に流して、剣の動きを読みにくくしてたのね・・・」


通常ならば、人間は無意識に体の動きとマナを連動させる。それを、わざとマナを切ったり、動きの途中で関係のないところにマナを増量させたりして、相手の混乱を図る。それが、ラストが使っていた技だった。


「目のいい相手ほど、ひっかかる・・・ってわけね」


体から槍を引き抜いて距離をとる。

壁の磔から解放されたラストが膝をつく。腹部からの出血は、すでに踝のあたりまで真っ赤に染めていた。致死量の出血は、あっという間に彼の体の力を奪い、ラストは力なく横たわった。顔は青ざめ、目が虚ろになっていく。


「何か、言い残すことはある」


死にゆく男に、ララベルさんは語りかける。人が死ぬ最後ま知覚できるのが、聴覚だという。ララベルさんの声も、落ちていく命に届いたようだった。


「俺の・・・オリジ・・・ナル」

「オリジナル? ・・・・あぁ、さっきの技のことね。・・・でも」


ララベルさんは、ラストを見下ろしたまま、槍を掲げる。ゆっくりと仰向けになったラストは、それを呆けたような表情で見つめている。命乞いは、なかった。


「大した技じゃなかったよ」


ラストのうなじから、鋼の刃が舌を出す。びくりと体が震え、すぐに全身の筋肉が弛緩した。

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