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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十二章 スパイ
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スパイ -8

「しょうがない。首から上を持って帰ることにするよ。腐ったり、重かったり、色々大変なんだが・・・かわいい後輩のためだ、我慢してやる」

「牢屋の中で、そのつまらない台詞を反芻して過ごしてくださ」


僕が台詞を言い終わる前に、ディランのナイフが喉を狙って突き出される。即座に横に身をかわして、僕も逆手で切り返す。ディランも軽快なフットワークで距離をとる。戦闘するところを見るのは初めてだったが、驚くほど俊敏な動きをする。

改めて、ディランを戦いの相手として観る。背は高くないが、がっしりとした体格は筋力の高さを如実に物語っている。組み伏せられたらまずいだろう。人の好さそうな顔は、スパイとしての資質なのだろう。その顔に、目だけが殺気を含んで異様なものになっている。

僕がすぐ後ろにいると、ララベルさんが自由に槍を引きづらいと思ったので、前進して距離を詰めて、至近距離で切りあう。背後の様子はわからないが、にらみ合っているのか、激しい音は聞こえない。


「俺からも、一つだけ聞こう」


僕に切り付けながら、ディランが言う。間髪を挟まずに高速で切りあっているところで、話せるのは余裕のあらわれか。


「さっき、ララベルに注意を呼びかけなければ、今頃は二対一で手間もなく話が済んでいたんだが・・・何故・・・いや、いつから、俺が怪しいと思った?」


僕は、ディランの膝頭を踵で蹴って、距離をとる。話しながらだと上手く戦えないので、ナイフを構えたまま、その質問に答える。


「違和感は、初対面の時です」

「初対面だと・・・? ろくに、会話もしていないはずだぞ」


僕の脳裏に、初対面の時の会話が浮かぶ。

――「俺は、腕っぷしは弱いが、任務中に怪我をしたことはないんだ。この商売、体が大事だからな」

――「・・・はい」


「あの時・・・普通の男なら、自分を「弱い」とは言わずに言葉を濁すでしょう。男なら・・・ましてやSSLのような職に就いているなら、腕に多少の自負はあるはず。本当に弱くても「腕っぷしは、それほどでもないが」などと言うのが、自然だったと思います」

「・・・」


少なからず動揺をしたのか、大降りになったナイフをかわす。


「あなたは、剣技ではなく喧嘩や力比べなら、弱い方ではないはず。それなのに自分を「弱い」と表現するのに、違和感があったんです。怪しいというほどではないですが、何かが引っ掛かったのはそこからですね」


僕の口上が終わると、ディランは笑い出した。


「ははは、用心深い・・・いや、疑い深いといったほうがいいか。お前の方が、よっぽどスパイに向いているよ」

「あなたが、単純なミスをしただけですよ。人をだまし続けるなんて、僕には向いていません」

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