スパイ -4
「解呪士を各地に移して分散したおかげで、人が生きていくギリギリの量の食料は、確保できたかもしれない。だが、依然としてリスクが高いことには変わりない。他国からすれば、命綱を握られた状態が続いている」
「それで・・・スパイですか」
僕は、ディランさんの言葉をつなぐ。
「あぁ。全国の解呪士を一堂に会することができれば、それはほとんど世界征服と同じだからな。未だに野望を見る国がいても、おかしくない」
「それで、たくさんの人が死んでも・・・ですか」
「向こうの言い分としては、国が一つになれば、平等に近づいて、飢えた人々を解呪士の不足から守れるはず・・・というところだな」
「・・・」
「確かに、人口当たりの解呪士の数は、当たり前だがこの国が一番多い。もともとが解呪士の故郷だし、人口もそれほど多くないからな。それを偏っているということもできる」
僕は、何も言えなかった。他国の言い分も、一理があると思ってしまったのだ。
「気にすることはない。こういう国の主張なんてものは、たいてい一理あるんだ。後は、その一理を使ってどれだけ要求するかが、腕の見せ所みたいなものだ」
ディランさんは、皮肉交じりに笑う。
「だが、さっきも言った通り、現在の状況の特殊なところは、解呪士が主導権を持っているという点だ。戦争になれば、多量の解呪士を失う恐れがある。したがって、他国がとる手は・・・」
「誘拐、ですか」
「ああ。後は勧誘という手もあるな。堂々とこの国に戦争を構えるのは難しい。だからこそ、スパイが暗躍しやすい世の中なんだ。さらに言えば、少数精鋭の部隊が必須になってくるから、アーツ・ホルダーの出番も多い・・・と思うぞ」
僕は、唇をかみしめる。敵国のアーツ・ホルダー。その言葉には、含むものがある。
「ああ、コボルを倒したのも・・・アーツ・ホルダーだったな」
ディランさんが、苦々しげに言う。
あの糸使いの男は、まだ見つかっていない。国外に逃げたのか、まだ潜伏しているのか・・・SSLには続報は知らされていない。
「よし、こんなところかな。後は、隊長達の会議で色々作戦がでるだろうから、俺たちはそれに従おう」
ディランさんは立ち上がり、伸びをして自分の肩を叩く。
「一つだけ、いいですか」
「ん? なんだ」
「スパイがこの国に来る理由は、わかりました。ただ、それがどうやってわかったんでしょうか」
「うーん、使えない奴はどんな組織にもいるからな。ミスをして、軍部に動きを補足された・・・とかじゃないか?」
「なるほど・・・今日は、ありがとうございました」
ディランさんは、歩きながら手を振ってこたえる。
気が付けば、周りの夜勤の人たちは全員帰っていた。僕も、立ち上がって荷物をまとめる。ジャヴさんの周りには、涎で泉ができていた。掃除の人には申し訳ないと思いつつ、置いて帰る。