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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十二章 スパイ
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スパイ -3

「自分の国の話なのに、全然知りませんでした。ありがとうございます」


僕は、頭を下げる。


「なに、いいってことだ。レイルには、前に貸しがあるからな」

「そんなこと・・・」


ディランさんとの何気ない会話の中、正直なところ、僕は嫌な予感がしていたの。それは、普段とは全く異なる異常事態と言えるだろう。僕は、背後から感じる怪しい気配を頭の中で言語化せずにはいられなかった。


(ジャヴさんが・・・静かすぎる)


楽しそうに話すディランさんは、僕の後ろの大男に気づいていないのだろうか。


「ええと・・・為になるいい話でしたね」


そう言って、自然に(みえるように)ジャヴさんの方を向いた。


「ムニャァ・・・」


案の定、ジャヴさんは机に突っ伏して寝ていた。モヒカンが若干動いたような気がしたのは、尻尾で返事をする犬のようなものか。


「何が「ムニャァ」だ!それが、いい年した男が出す寝息か! いい話をしてるんだから、起きろ!」


ディランさんは拳骨を使ってジャヴさんの素肌の部分を叩く。バッと起き上がったジャヴさんは、周りを見回して少し止まった。


「えーと・・・ああ・・・」


頭をさすって、状況を把握したようだ。目に力が戻ってきた。


「うっせえ! 勝手に話し始めたのはそっちだろ!」


ジャヴさんの言うことも一理あると思いつつ、僕は増長させないためにも黙っている。


「夜勤明けに、年寄りの長話を聞いてられるか!」

「ま、まぁまぁ。皆、夜勤明けですから・・・今日は解散しましょうよ」

「いやいや、まだだ。この国になぜスパイがという話まで、いってないぞ」


そういえば、そうだった。ここまできたのだから、聞いておかねばなるまい。僕は、あくびを喉に押し込めながら、ディランさんに話の続きを促す。


「過去に戦争を回避したとはいえ、この国が重要なキーを握っていることに変わりはなかった。解呪というスキルを持つ人間は、よその国では生まれにくい」


そう言って、ディランさんは両手を掲げて見せた。手からマナが出ているのが分かる。この国の解呪士の一族しか使えない、解呪の法だ。


「そもそも、解呪というのは、なぜ他の国の人が使えないのでしょうか」

「よくわかっていないというのが、現実だ。もともと自然界には『呪い』はほとんどなかったらしい。この国には昔から解呪を使うことができる人間が生まれたらしいが、それが注目されることは、ほとんどなかった」


背中に、刷毛のような感触がある。ジャヴさんの頭が下がって、毛が当たっているのだろう。


「よその国の人間が解呪・・・というより、『呪い』を発散させようとすると、かなりの量のマナを使わなければいけないらしい。それが、この国の人間はごくわずかな量のマナで、『呪い』を分解することができる。能率から言えば、千倍以上の差があるらしい」

「呪われたままの食べ物や空間に触れ続けると・・・」

「ああ。『呪い落ち』になる。精神に異常をきたしたり、肉体に変化が現れたりして、始末の悪いことに、それが遺伝する。野生の動物の多くは、全身に呪いが固定化されて、変異呪種になる」


今までに戦った、大黒猿、腐れ兎、黒馬達の姿が脳裏をよぎる。かれらの原種は、人と違って呪いに抗うすべがなかったのだ。

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