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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十二章 スパイ
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スパイ -2

「まず、これから言うことは全員への伝令で、軍の命によるものです。前置きが長くなるので一字一句そのままお伝えします」


軍の命。その言葉が出た時に、場に緊張が走った。どよめきが起こる前に、アッシュ警備長は言葉を続ける。


「『国内に多数のスパイ侵入の情報あり。見つけ次第、必ず軍部に引き渡すこと』」・・・これが、軍部からの伝言です」

「・・・!」

「ど、どういうことだ!」

「スパイなんて、どうやって見分ければいいんだ!」


悲鳴にも近い声が、あちこちから上がる。


「皆さん、落ち着いてください。私も気持ちはよくわかります。ですが、確かに、ここ数か月の間、不審な出来事が続いています。コボル警備長が倒れたのも、恐らく異国の刺客・・・それも、アーツ・ホルダーによってなされた凶行です」

「・・・」


コボル警備長の名前が出たとたん、皆が静まり返る。


「軍の言いなりになるわけではありませんが、我々SSLも手をこまねいているわけにはいけません。各隊の隊長、隊長代理でこれから作戦会議を行います。皆さんは、その指示に従ってください。以上です」


そう言って、アッシュ警備長は壇上から降りた。厳しい表情は、対策の苦慮の表れか。

ざわめきが収まらない会場に、僕とジャヴさん、ディランさんは座ったまま黙っていた。


「とんでもないことになったな・・・軍の命令とはいえ、中途半端な情報を出しても、現場が混乱するだろうに」


ディランさんが、そうつぶやく。アッシュ警備長の発表には否定的なようだ。


「そもそも、他国の人間が、どうしてこの国にスパイなんて・・・」


僕が放った言葉を、ディランさんはすぐに答える。


「そうだな・・・まず、レイルには、この国の特殊性から説明しようか」


そう言って、椅子をこちらに向ける。僕も頷いて、ディランさんの話を聞く姿勢をとる。


「まず、この国はもともと小さな王国だった。領地こそ大きかったが、そのほとんどは山で生産性が低く、よその国からしてみれば侵攻するほどの価値のない国だった。レイルの一族のような遊牧をする山の民、やせた土地を耕す農民、険しい冬山で狩猟をする民、そして食料の「毒」や「呪い」を祓う解呪士の一族・・・バラバラの民族が、他国に攻められないために国を形成し、緩い国を形成していたんだ」


僕の山には、30~50人ほどの人が暮らしていた。それぞれの山には、今でもいくつかの集落があるはずだ。街の生活が豊かになる前は、もっと多くの山の民がいたという、父の言葉を思い出す。


「しかし、『何もかもが変わった日』以降、急激に増えた呪いが食べ物や土地を汚染しはじめて、人間の暮らしに影響を与えるようになってから、世界中で一気に解呪士の需要が高まった。途端に、この国はかつてないほどの注目を浴びるようになった。大した戦力もないのに、世界一重要なポジションに立つようになってしまったんだ」


僕は頷きながらディランさんの言葉をかみ砕いていく。確か、変異呪種が生まれたのも、『何もかもが変わった日』の後のことだ。


「いつ、隣国が攻めてくるかわからない。そんな毎日で日に日に緊張が高まっていく中、国内には外国から次々と解呪のための物資が運び込まれ、国は過剰なまでに豊かになっていき、対照的に周辺国は呪いの影響で飢えと病気に汚染されていった。そんな中、この国の祖先・・・解呪士の一族が、最悪の事態を回避するために、驚くべき策を出したんだ」

「策・・・ですか」

「ああ。彼らは、一族の一部が、諸外国へ引き渡されることを提案したんだ。自ら人質として、労働力として、買って出たんだな。そして、万が一自分がいる国が祖国に攻め入った場合は、全員が毒を飲んで死ぬという宣言をした」

「・・・毒を!?」


それが本当なら、すさまじい作戦だ。・・・貴重な解呪士を失わないためには、解呪士を預かった国は、侵攻をあきらめるだろう。だが、死ぬ覚悟がないと思われたら、すべてが無駄になってしまう。解呪士たちも、日々決死の覚悟だったのだろう。


「この国も、そんな解呪士たちを止めなかった。戦争になれば、もしかすると世界征服もできたかもしれない。だが、代償として人類のほとんどが死に絶える・・・そんな未来を、選ばなかったんだ」

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