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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十一章 忘却の中の戦い
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11-9

「アーツは覚えていませんが・・・稽古をつけてくれて、ありがとうございました」

「僕の方こそ。楽しかったよ。色々学べた気がする。よかったら、またやろう」

「はい、ぜひ」


固い握手を交わした後、アッシュ警備長は帰っていった。空の星を見る限り、すでに深夜を回っている。夜勤の僕と違い、日勤のアッシュ警備長には無理をしてきてもらったようだ。


「面白いやつだろう」

「ええ。いい人ですね」

「人柄ではなく、剣士として、どう見る」

「どう見るって・・・格上の相手を評価するのは難しいです」

「うむ。体格と剣技は向こうの方が上、同じアーツ・ホルダー。顔は・・・まぁ、レイルは将来性に期待しよう。とにかく、一見すると勝ち目がないように見える・・・が、お前の方が勝っているところもあるぞ」

「えっ・・・」


その言葉が信じられなくて、剣精の方を向くと、剣精の深い緑の瞳と視線が一つになる。長い黒髪が艶やかに揺れている。


「わからないか」


不覚にも僕が一瞬見とれてしまったのを気づかれたのかどうかは、わからない。頭の中を、アッシュ警備長に慌てて戻す。


「うーん・・・全然わかりません」

「そうか・・・自分ではわからんものなのかもな」

「・・・」

「・・・」


剣精は、ニヤニヤとしてそれ以上語ろうとしなかった。


「まさか、言わない気ですか」

「ふっふーん。どうしようかなー。若者にあんまり楽をさせてもなー」


わざとらしく、さっき僕が目を奪われた髪の毛先をチェックしはじめる。


「わかりました。では、自分で考えてみます」

「えっ、・・・もうちょっと粘らないの」

「はい。修行の続きをしましょうか」

「・・・まって、言うから! もっと嬉しそうに聞いてよ!」

「手短にお願いしますね」

「・・・はい」


世界最強の武人とか、剣の心を知るものとか、色々な言われ方をするこの精霊は、引くとすぐに音を上げる、ちょろいところがある。


「お前が勝っているところは、貪欲さと対応力だ」

「貪欲さと対応力・・・」


ピンとこず、オウム返しにしてしまう。


「あいつは育ちがいいせいか、何がなんでも生き延びてやる。そのためには、殺しもいとわない・・・という気配があまりない。死ぬ寸前にはたいていの人間が発揮するものだが、殺し合いの場では、それでは遅いんだな。相手を叩きのめすスイッチが、すぐに入らないといけない」

「僕も、そんなにスイッチ入っているつもりはないんですけど」

「いや、レイルは相手に木剣を持たせただけでも、目の色が変わる。好戦的というのではなく、用心を怠らないようになる。アッシュも、それに気づいたはずだ」


具体的に言われると、自分でも心当たりはある。ただ、それが特別なものだとは、思っていなかった。山の暮らしでは、周りの気配に敏感にならざるを得なかったし、特に大黒猿の一件で死線をさまよってからは、それが鋭敏になって続いている。それが、SSLでは当たり前のものだと思っていた。


「試合ならともかく、殺し合いなら・・・分が悪いのは確かだが、レイルにも勝機はある。もっとも、あいつが自分の気性に気づいて修正するようなら、話は別だけどな」

「・・・今日の特訓は、アッシュ警備長にそれを気づかせるのが目的だったんですか」

「そうだ。それと、レイルにも色々な実戦の経験を積ませたかったし」

「そうでしたか・・・色々考えてくれていたんですね」

「なに、お前たちが伸びてくれれば、いいんだ。才能のある人間を一度に二人伸ばせられれば、それに越したことはない」


剣精は、まるで人格者のようなことを言う。


「それに・・・私にも、必要なことだからな。気にするな」

「剣精にも・・・? どういうことですか」

「へっへっへ。今度こそ教えてやんないもんね」


剣精はそれ以上は笑って答えてくれなかった。涙を流しながら全てを話してくれるのは、しばらく後のことだ。

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