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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十一章 忘却の中の戦い
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11-8

「ええと・・・貴重なお話、ありがとうございました」

「・・・役場の人間みたいだな」


剣精が言う通り、何と言っていいかわからず、僕がとりあえず発した言葉は、とてもよそよそしくなってしまった。アッシュ警備長は、悲しそうに笑う。


「剣精、アーツの名前は、変えられないんですか」

「ダメだ。一度登録したものは、変えられないな」


剣精が胸を張って言う。取り付く島もない。


「言っておくが、いじわるして言うんじゃないぞ。本当に変えられないんだからな」

「・・・」


疑わしい(楽しんでいるように見える)ところもあるが、もしかしたら本当に手続き的なものがあるのかもしれない。そうだとしたら、剣精に言ってもしょうがないのだろう。

だが、これで以前、剣精が僕のアーツの名前に期待していた理由がよくわかった。一時の安易な気持ちでつけると、後悔することになりそうだ・・・危ないところだった。


「よし、そろそろ時間だな。それでは双方とも、相手の技を見たというメモを残しておくんだ」


剣精に促され、僕とアッシュ警備長はペンをとる。


「繰り返しになるが、後で自分が見て相手のアーツを推測できるようなものは、やめておけよ」

「はい」

「わかりました」


僕とアッシュ警備長は、簡単なメモを書き上げると、剣精に渡す。


「ふむ。これなら、いいだろう。よし、二人とも席に着くんだ。そろそろ、薬が効いてくるからな」


剣精は、僕たち二人を壁際に避けてあった椅子に座らせる。


「体がしびれて目まいがするかもしれないが、すぐに目が覚める。目を閉じて、呼吸を深くするんだ」


言われた通りに深呼吸をすると、やがて頭が揺れ始めた。隣を見ると、アッシュ警備長も首が座らない赤子のように、不安定になっている。

目がちかちかとして、瞼が重くなる。やはり、この薬は体にわる


目を開けると、アッシュ警備長が立ち上がって僕の方を見ていた。着席をした覚えがない僕は、何が起きたのかよくわからずに辺りを見回す。


「レイル君・・・君は、記憶があるかい?」

「いえ・・・気が付いたら、椅子に座っていました。僕たちは、本当にアーツを・・・?」

「薬を飲んでから時間が経っているのは間違いないが・・・」


僕とアッシュ警備長は、剣精の方を見る。


「やーっぱり、疑ってたか。私が疑われるのも、想定通りだからな!」


そう言って、剣精は懐から紙を取り出す。


「ほら。さっきお前たちが書いたメモだ。自分の字かどうか、確認するといい」


受け取った紙を開くと、確かに僕の字で何かが書いてある。


「『アーツの名前は、恥ずかしくないものをつける』・・・と、書いてあります」

「うぐっ!」


アッシュ警備長が、胸を押さえて苦しんでいる。心当たりがあるのだろうか。


「な、なるほど・・・わかりました。確かに、レイル君は僕のアーツを見たようですね」


震える手で、アッシュ警備長は自分のメモを取り出す。


「僕のメモには・・・『寒いから、しもやけに注意』と書いてある。レイル君、わかるかい」

「・・・!」


なるほど、と思った。確かに、実際に僕のアーツを見た人にしかわからないことだろう。そして、記憶を失ったアッシュ警備長にはわからないようなメモになっている。

お互い顔を見合わせて、頷いた。薬は確かに効いていたようだ。


「ところで、アッシュ警備長のアーツの名前って、どういったものなのでしょうか」

「実は、僕には婚約者が・・・」

「もういい! その話はさっき聞いたわ!」


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