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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十一章 忘却の中の戦い
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11-7

「あの、無理に言わなくても・・・ちょっと疑問に思っただけなんです」

「いや、いいんだ。剣精の顔を見てみてよ」


ツヤツヤとした、期待に満ちた笑顔だ。玩具を与えられる子犬のようといえば可愛げがあるが、実際はもう少し邪なものを感じる。


「当時、僕には結婚を考えている女性がいて・・・ローラという名前だったんだけど」

「!?」


アーツの名前を聞きたかっただけなのに、アッシュ警備長の口からはいきなり昔話が始まってしまった。


「当時、SSLの武器番になったばかりの僕は、もっと給与をあげたくて、色々な技を研究していたんだ。アーツ・ホルダーになれば、金銭的に困ることはなくなると聞いていたからね。結婚資金を溜めるためにも、SSLで生き残るためにも、修行を続けていたんだ」

「・・・はい」

「やはり、普段使っている剣術にマナの体術を組み合わせていこうと決めてから、体の色々な部分にマナを使っては、可能性を見出していた。だけど、どうも行き詰まりに当たってしまってね。・・・色々と、悩む日が続いたんだ。ところが、ある日SSLの任務中に、街の女の子が人形を落としたのを拾ってあげたんだけど、その時に、人形の持ち方が違うといわれてしまったんだ。何が違うんだと思って、手を見たら、横にしたまま、人形を渡してしまったんだね」


アッシュ警備長は、手を横にして人形が倒れている様を表す。


「その女の子は、人形は人が立っているように歩かせて渡さないといけないと、言っていた。横になったまま動くなんて、変だと。そこで、雷に打たれたような気になってね。僕も雑貨屋で人形を買って、色々と卓上で並べてみたりしたんだ」

「・・・」


剣精は、プルプルと肩を震わせている。


「見れば見るほど、その構えは素晴らしいものに見えた。君も体験した通り、立っている側の人形からは、寝ている側の人形に届かない。これだ、と思って、僕はトレーニングに明け暮れた。マナを使っていても、あの姿勢で機敏に動くのは難しいものがあったからね。一から筋肉の鍛え方を考え直さなければいけなかった。背中、足腰を鍛え、あの姿勢で相手の剣を受けたりかわしたりする練習も、秘密裡に行ったんだ。そして、念願のアーツ・ホルダーに認定された時、僕は彼女にサプライズを用意したんだ」


剣精の笑いをこらえている真っ赤な顔、そしてアッシュ警備長のアーツ・・・僕は、生唾を呑む。


「『ローラ、今日は素晴らしいお知らせがあるんだ』・・・そう言って、僕はローラにアーツ審査に受かったことを伝えようとしたんだけど、ふと、いい考えが頭に浮かんでね。実際に、ローラにアーツを見てもらおうと思ったんだ。もちろん、SSLではない一般人だったローラにアーツを見せることは、彼女に危険を与えるものだし、いいことではない。だけど、若かった僕はそのことに考えが及ばず、寝室の扉を開けて、ローラに・・・」

「あっ、あの! も、もう大丈夫です!」

「『ほら! ローラ! これを見てよ! 素晴らしい体勢だろう!』・・・そう言って、僕は両手に持った一対の人形を見せながらローラにあのアーツの構えで近づいたんだ・・・」

「・・・」


止めたのに、アッシュ警備長は話しきってしまった。剣精は笑い転げている。何度か聞いた話だろうに、よっぽど気に入っているのだろう。


「その後、しばらく別居して・・・別れを告げられたよ。誤解を解こうと思ったけど、アーツ審査に受かってアーツ・ホルダーのことを知ってからは、あれがアーツだと教えることもいけないと思ってね・・・なにか誤解をされた、そのままさ」

「う・・・」

「そんなわけで、聞いてください。僕のアーツの名前は、『ローラ、僕の愛を君に捧ぐ』です」


つうと、アッシュ警備長の頬に涙が流れた。

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