11-6
「貴重な体験だったろう」
「はい。色々と想像以上でした」
「うむ。動転していたとはいえ、考えなしに飛ぶのは、やはりよくないな。着地するときに相手がどうでるかまで、考えるべきだ」
「はい」
僕と剣精が反省会をしていると、アッシュ警備長の手が恐る恐る挙がった。
「あの、僕もレイル君のアーツを見たいんだけど・・・」
「あっ、そうでした。では・・・」
僕は、自分のアーツを使って説明しようとして、はたと気が付いた。足の指を使ってナイフを掴む僕のアーツは、もしかすると・・・
剣精の方を見ると、剣精は深くうなずいた。やはり、だ。僕のアーツは、足元に視線が向きやすい、アッシュさんのアーツとは、頗る相性が悪い。剣精は、これを見越していたのだろうか・・・あのドヤ顔を見る限り、間違いなさそうだ。
「レイル君?」
アッシュ警備長に言われ、僕は我に返る。確かに、相手のアーツを知りたいという欲求は大きいものだろう。アッシュ警備長のような、腕の立つ人ならなおさらだ。僕だけ相手のアーツを知ったままというのも、フェアではない。
「実は、僕の技は・・・」
実戦で使ったとしても、すぐに看破されるのがオチだと思った僕は、口頭で自分の技を説明した。
「なるほど。足の指で武器をか・・・。面白いことを考えるねぇ」
「お前に言われたくはないだろう」
剣精が、僕の考えを代弁してくれた。
「あんなアーツがあるなんて・・・驚きました」
「はっはっは。ありがとう。マナがあるからこそ、できる構えだね」
「すごかったです。武器の制空権があんなに変わるなんて・・・あぁ、記憶がなくなるなんて、もったいないです」
そう、この記憶は、もうすぐ消えるのだ。貴重なものを見られただけに、それが惜しまれる。
「よし、お互い、紙に相手の感想を書いておけ。当たり前だが、技のヒントになるようなものは書いてはいかんぞ」
そう言って促す剣精を、僕は遮ってしまった。
「そういえば・・・」
「ん?」
「アッシュ警備長の・・・あの技の名前は、なんていうんですか」
「えっ、な、名前かい。名前を、知りたいのかい」
途端にしどろもどろになったアッシュ警備長は剣精の方を見る。
「私は、何も言っていないぞ。レイルの自発的な質問だ」
その通りで、単純な疑問だったのだが、剣精の顔には「もっとグイグイいけ」と書いてある。何か、聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか。
「アッシュが言わないのなら、私の口から説明するぞ」
「ま、待ってください。わかりました。自分の口から説明させてください」