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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十一章 忘却の中の戦い
102/200

11-4

「あの・・・体に悪いとか、苦いとか・・・そういうのは、ないんですか」

「なんだ、レイルは薬が苦手か」

「ええと、山育ちなので、あまり飲んだことがなくて」

「もともとは痛覚を和らげるために作られた薬だ。体に悪いという報告は、(あまり)なかったな」

「? 今、小声で何か言いませんでしたか」


高速で動いた剣精の口元から発した言葉を、聞き逃してしまった。


「大丈夫だ。心配ない。問題ない。そうだ、アッシュが先に飲んでみろ」

「僕ですか? わかりました」


そういうと、アッシュ警備長は一気呵成に粉薬を飲み干した。


「えっ、アッシュ警備長・・・?」


僕は、そのためらいのない飲みっぷりに驚く。


「すごいだろう。こいつは、面白いくらい人を疑わないからな。素直だから剣技が伸びたが、人としてはちょっと残念なところがある」


言う通りに薬を飲んだのに、ひどい言い草だとは思うが、確かにすごい。


「アッシュ警備長、お変わりはありませんか」

「うーん、そうだなぁ・・・」


アッシュさんは二、三度飛んだあと、剣を振って感覚を確かめているようだ。


「大丈夫みたいだよ。レイル君も飲んでみなよ」

「はい・・・」


僕は、薬包を手に取ってしげしげと眺める。古臭く汚れた包み紙が、一層飲む気をなくす。


「これを飲むと、僕たちはしばらくすると今の記憶がなくなるんですよね」

「そうだ。薬が切れる間際に、少し目まいがするが、それが収まるときれいさっぱり忘れている」

「えっ、目まいって・・・大丈夫なんですか」

「レイルは心配性だな。死んだ奴はいないから、安心しろ」

「う、うーん・・・」

「はっはっは。期待の新人、レイル君にも、苦手なものがあったんだね」


アッシュ警備長が、木剣で自分の肩を叩きながら、爽やかに笑う。


「僕が、期待の新人・・・?」

「うん、コボル警備長が、よく言ってたよ」

「コボル警備長が・・・」


脳裏に、倒れたコボル警備長の姿が浮かぶ。そうだ、僕はもっと強くならなくてはいけないんだ、という、思いがよみがえる。


「わかりました。飲みます!」

「おう。アッシュと時間がずれすぎてもいけないから、ぐっといけ。舌の真ん中に乗せて、水で流し込むんだぞ」


そう言って、剣精は水を持ってきてくれた。

それを見て、アッシュ警備長がニコニコと笑っている。剣精も、それに気づいたようだ。


「なんだ、アッシュ。言いたいことがあれば、口に出せ」

「いやー、剣精がなんだかお母さんみたいに面倒をみているのが、微笑ましくて」

「おか・・・キサマ・・・後で、覚えておけよ」

「忘れちゃうんですよね? この薬を飲むと」

「ぬ・・・」

「剣精・・・あの・・・」

「ええい、なんだ」


僕の呼びかけに、しょうがないなという風に振り返る。


「薬・・・まずいです・・・」

「だから、舌の真ん中に乗せろといったろう。味覚の薄い部分以外に広がる前に、水を飲むんだ。ほら、流し込むんだ」

「ふふふ・・・」

「アッシュよ・・・何が言いたいかは、わかる。だが、薬を飲んだということは、その間は私が何をしてもお前は覚えていられない、ということでもあるんだぞ」

「・・・なるほどー。気を付けます」

「ほら、レイル。飲み干したか」

「はい・・・」


口の中に嫌な味は残っているが、なんとか流し込めた。舌を出して薬が残っていないか確かめる僕に、剣精は木のナイフを投げた。僕は、それを受け取る。


「よし、それでは、これから30分の間、アーツは解禁になると思っていい。無理に使う必要はないが、実戦と同じで、チャンスがあればどんどんいけ。近くに誰かが来たら、私が止めるから安心しろ」

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