11-3
「ええと、言いたいことが二つある」
剣精は言葉を選んで口に出そうとし、思いとどまって頭を振った。
「いや、やっぱり一つでいいや。一つ! 君たちは拒否権を持つほど強くない。以上だ」
僕たちの人権が、剣精の宣言であっさり握りつぶされてしまった。
とはいえ、やりたくないことは、やりたくない。いざというときは、アッシュ警備長と僕の二人がかりなら・・・と考えたところで、剣精と目が合った。
「やめておけ。アッシュが三人くらいなら、面白くなるだろうが」
「う・・・」
自分の実力不足が、悲しい。とはいえ、僕がアッシュ警備長並みに強くなっても、まだ二人がかりでは倒せないということらしいが。
「それで、具体的には何をすればいいんでしょうか」
アッシュ警備長は、挙手をして質問をする。アッシュ警備長は覚悟を決めたのだろうか。
「まず、諸君にはこの薬を飲んでもらう」
「ええ・・・薬、ですか」
ますます話が怪しくなってくる。下唇を出して、怪訝な表情をする僕を見ずに、剣精は懐から紙に包まれた薬を二つ取り出した。
「私が調合したものだ。もともとは別の目的のために開発された薬なんだが、こいつには副作用で、前後30分の記憶が飛ぶという、面白い特性がある」
「おお・・・」
「と、いうことは・・・」
僕とアッシュ警備長が、同時に感嘆の声を上げる。アーツ・ホルダーだからこそ、理解が早かった。
「そうだ。二人とも、お互いに漏洩のリスクなしにアーツを使える。私は審査員だから、もう見ているので問題はないだろう」
アーツを、他の人に使える。これは、ちょっとすごいことだ。登録したアーツは、漏洩した時点で価値が大きく下がる。
最悪のケースでは、情報の秘匿のために相手を殺さないといけないという縛りから、抜け出せるのだ。
せっかく身に着けても、練習も実戦もしづらいというアーツのありようが、変わるかもしれない。そう思った。
「レイルは、字を書けたな」
「はい」
「よし。アッシュは大丈夫だろう」
「ええ」
剣精は、僕とアッシュ警備長にペンと紙を渡した。
「これは・・・?」
「終わったら、相手のアーツの感想を書くといい。ただし、当たり前のことだが、アーツの内容は書いてはいかんぞ」
「どうして、こんなことを・・・?」
「目が覚めたら、お前たちは、自分は本当に記憶を失っていたのかと聞くからだ。終わってしまえば、一瞬気を失っていただけに感じるからな」
「ふむ・・・剣精は、どうやってこの薬を手に入れたんですか?」
「私は、人間だったころは、医者だ。薬の調合の研究もしていた」
「へぇ・・・」
アッシュ警備長も初耳だったのか、興味深そうにうなずく。
「メモは、一応私が目を通してから返却するから、安心しろ。・・・ほかに、質問はあるか」