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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第十一章 忘却の中の戦い
100/200

11-2

僕とアッシュ警備長は、正面から体重を乗せて激しくぶつかる。いつも、剣精への攻撃はすべてかわされていたので、こんなに体をぶつけあう戦いは新鮮で楽しい。剣精との攻防は、空を掴むような、自分の行動を否定されていくような感覚があったが、アッシュ警備長とのぶつかり合いは、会話のような感覚になる。


初手に刻むように放った突きを、アッシュ警備長は難なくさばく。ごまかしがきく相手ではないとわかった僕は、両刀のナイフを逆手に持ち替えて、超接近戦に挑む。

僕の一振り一振りを、アッシュ警備長はギリギリの範囲でかわす、受ける、撃ち落とす。防御一つとってもここまで多彩な技術があるのかと、感動を覚えるほどだ。

アッシュ警備長が距離をとろうとしたところを逃がさず、距離を掴んだまま攻め続ける。距離をとられたら不利になるのはわかっていたので、アッシュ警備長の足運びを読んで追い続けた。


「おっと・・・やるね」


汗がかかるような接近状態からほとんど離れず、無呼吸で打ち続ける僕の連撃は、体格の差、武器のリーチ、経験の差を使ってミス一つなく対処されていく。剣精が相手に触れさせずに制圧するのとは違い、アッシュ警備長は盤石の城壁を内に備えて崩さない。

牽制、フェイント、急接近、意識をそらしてからの足の踏みつけ。僕は、剣精から盗んだ技術を惜しげなく使うが、どれもが数ミリ秒届かない。

気が付けば、僕の正面で対峙しているはずのアッシュ警備長の姿はおぼろげなものになっている。体を動かすことと切り離して、脳裏では必死に活路を探していた。

何か、ないか・・・まだ、使っていないもの。まだ、僕が気づいていないもの。まだ、世に生まれていないもの・・・。

瞳孔が開き始め、世界から音が消えていく。自分が集中していくのがわかる。

剣が届くまで、後、0.3秒早く動かなくてはいけない。

僕は、腰の回転を支える足の角度を修正する。よし、これで、後0.2秒。次に、マナの流れ方をアッシュ警備長の動きに同調させ、動きの起こりを早める。これで、後0.1秒・・・。次は


「よし! そこまで!」


剣精の声で、僕は我に返った。僕の首元に、アッシュ警備長の木剣が付きつけられている。動きの修正に夢中になりすぎたところを、狙われたのだろう。


「うん、すごいね。どんどん動きがよくなっていくね」

「・・・ありがとうございました」


立ち止まってはじめて、自分の息が切れ切れなのに気づく。アッシュ警備長は、まだ実力を出し切っていない。悔しいが、残り0.1秒を詰めたとしても、攻撃が届くかどうかは怪しいものだった。思った通りではあるが、大きな隔たりがあるのを再確認させられた。


「どうだ、レイル。得られるものはあったか」

「・・・はい」


シャツをまくって、汗を拭きながら答える。うんうんと、剣精は嬉しそうにうなずく。


「僕も、久しぶりに剣に触れて楽しかったよ」


アッシュ警備長は、さわやかに笑う。余裕の口ぶりだ。


「また、お願いします」

「ああ、こちらこそ」


僕は差し出された手を握る。

そこへ、パンパン、と、手を叩く音が聞こえた。


「よーし、爽やかに終わろうとしているようだが、これからが本番だぞ」

「えっ・・・何をするんですか」

「うむ。男二人、揃ったのだから・・・することは決まっている」


クククと、悪そうに笑う。汗を拭きながら、ニコニコとしているアッシュ警備長と、嫌な予感を覚えて身構える僕。


「ズバリ! 友情の証! 見せっこだ!」


「お断りします」


と、僕。


「あ、僕も同じく・・・」


アッシュ警備長も、こちら側のようで安心する。

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