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アーツ・ホルダー  作者: 字理 四宵 
第一章 山岳の戦い
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山岳の戦い -9

下り坂を転がるように降り、山道を抜けると、ロバを引いた男がこちらへ向かってくるところだった。恰幅のいい姿は見たことがある。何度か僕の家に羊毛を買いに来たことがある人物だ。大きな荷物を持っているところを見ると、父と商談するつもりだったのかもしれない。満身創痍の僕を見て、口を開けたまま驚いている。


「君は、確か・・・山の民の・・・どうしたんだ、その怪我は!」


返事をしようとしたが、喉の渇きで言葉がでない。


「こ、これは、た、大変だ!山賊か?お父さんのところへ行かないと・・・」


僕は、力なく首を振る。


「山の上の部族は・・・変異呪種に、襲われました」

「変異呪種・・・!」


息を呑む、ひっという音が聞こえた。落ち着かなそうに、辺りを見回す。


「つり橋を落としたので・・・この辺りは、たぶん大丈夫です。ただ、弟とはぐれてしまったので、助けてほしいんです」

「た、助け!?」


途端に、男はしどろもどろになる。


「弟とはぐれてしまったか・・・ううむ。い、いや、しかし、まだ、変異呪種が近くにいるかもしれないんだろう・・・?」

「探しに行ってくださいとは、いいません。人を呼んできて、くれませんか」

「そ、そうか・・・うん。それがいいだろうな。よし、待ってなさい。街へ行って人を呼んでくる」


そういうと、男はロバにまたがった。急に背負うものが増えたロバは、非難をするようにいなないた。


「すぐに戻るから、荷物を見ていてくれな・・・。ハイヨッ」


男が街道を走り去る姿を見届ける前に、僕は意識を失った。

疲労と、家族を失ったショックに、内出血と、脱水症状、そして、マナの枯渇。僕には何も残されていなかった。


・・・


体の揺れに目が覚めると、馬車の幌の中にいた。複数の軍人らしき人間が、僕を囲んでいる。

側にいた男が、僕が気が付いたのを見て取ると、何も言わずに水筒を僕の口元へ持ってきてくれた。

ゆっくりと、その水を飲むと、全身に水分が染み渡っていくのが感じられた。


「おとうと」

「今、捜索隊が山を調べているよ。街の人間も、集まってくれている」

「僕も」

「ダメだ。君は今、大怪我をしているんだ。探しに行っても何もできないし、一刻も早く治療をしなければいけない」


ぐうの音もでない正論だ。僕は、何もできない悔しさで唇をかみしめる。

そんな姿を見て同情をしたのか、男は優しい表情になって、僕の肩をたたいた。


「君、よく、頑張ったな。名前は?」


「僕の名前は・・・レイルです」

「レイルか。俺はコボル。首都で警備団の長を勤めている人間だ。何があったのか、詳しい話を聞かせてくれないか」

「軍の人ですか」


武装はしていなかったが、立ち振る舞いが訓練されていた。


「いや、違う。だが、国の人間だよ。首都には、軍以外の警備組織があって、私たちはそこに所属している。今日は、たまたま近くの街に来ていたところで、応援要請があったんだ。軍人は、嫌いかい?」

「父が・・・嫌いでした」

「そうか。お父さんとは気が合うな・・・だが、臨時とはいえ任務としてここに来たので、上に報告をしなくてはいけないんだ。すまないが、協力してくれないか」


僕は首肯の後、語り始めた。以前から、村の家畜が襲われていたこと。街の役人に、父が手紙を出していたこと。そして、昨晩多量の群れが襲い掛かってきたこと・・・。


「そうか・・・。村の役人から手紙が届いていたという報告は私も受けている。彼らも尽力したようだが・・・間に合わなかったな。すまない」


コボルと名乗る男は、深々と頭を下げた。

僕は、その謝罪をどう受ければよかったのかわからなかったので、黙ってその頭を見ていた。

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