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第5志望:とりあえず進学で

‪ ‬この世界に光はあるのか、紛い物の希望に目を眩ませていただけで、昨今の若者の方がよく理解しているのかもしれない。

‪ ‬そんな賢い昨今の若者の中で、馬鹿な……いや、アホな奴等ばかりがいるのがこの五良南高等学校である。


‪ ‬ありもしない太陽があると信じて、しょっぱい電灯に向かって羽ばたく蛾がたくさんいる。 そんなアホな蛾の中でもとびっきりのアホが一人、不安げに笑っていた。


‪ ‬進路希望調査票はすでに手に握られていて、俺が声を掛けるより前に立ち上がって担任のところに向かっていた。


‪ ‬こちらに目を向けたのを見てしまい、放って部活に行くのも気が引けてしまう。 人が減っていく教室の中で、あと数ヶ月でここから離れるのかと感慨深く思う。


‪ ‬入学した一年生の頃は、成績も悪く……というか、そもそも勉強などしていなかった中学の頃の文を取り返すところから始まった。

‪ ‬朝起きて勉強しながら朝早くに登校、朝練を一人でこなしてから授業、休み時間は遅れた勉強を取り返していき、昼休みは筋トレをしてから飯を食って、時間が余ればまた勉強。 放課後に部活をして、部活仲間とラーメンを食ってから家に帰って自主練と勉強として、倒れるように寝る毎日。

‪ ‬やっと授業に追いつけたのは一年の二月とかだった。


‪ ‬そこからはまた部活に熱中した。 必死になってテニスをしていたら、妙な転校生がやって来た。

‪ ‬そいつと必死に争って仲良くなって、尊敬して……高校になって初めて部活仲間以外の奴と友達になるようになった。 そんな時にまた転校していった。

‪ ‬世界が広がったように思えて、熱中していたテニス以外の物も好きになれた。


‪ ‬三年になれば幼馴染の安穂と同じクラスになり、また話すようになった。 焦りながら進路を決めようと……彼女と放課後に話していた一ヶ月は、もう終わるのだろう。


「……馬鹿か、俺は」


‪ ‬決められたことはいいはずなのに、残念に思っているなど……友達としておかしなことだろう。

‪ ‬気が付けば教室には一人で、安穂の鞄もなかった。 一緒に持っていったのだろうか。


‪ ‬俺に教室で待っていてほしいと思っているように見えた……なんて、馬鹿な妄想だったらしい。

‪ ‬安穂にとっては、ただ教師に言われて進路希望調査票を提出するように催促するだけの奴だったのだろう。 ……俺にとってはどうだったのか。


‪ ‬女々しい考えだと思っていると、窓に映る自分の顔が映る。 割とゴリラだった。

‪ ‬ゴリラであることを自覚する。 そう言えばあまり鏡とかよく見ないが、こんなにゴリラっぽいのか。


‪ ‬なんとなく笑っていると扉が開いて、安穂の華奢な身体がびくりと震えた。


「……なんで笑ってるの?」

「いや、見た目が思ったよりゴリラだな、と」

「……最近は、イケメンゴリラもいるらしいよ?」


‪ ‬教室に戻って着たことに安心していると、彼女は俺の前に座って頰を掻く。


「……進学するって決めたけど、どこに行くか決めてなかったや」

「……アホか」

「……うん。 そうかも。 神林はなんでここにいたの? ……サボり?」


‪ ‬お前が待っていてほしそうだったから、などと妙なことを口走れるはずはなく、適当に身体を伸ばしながら言い訳を考える。


「ああ、荷物忘れてきたから戻って来ただけだ」

「……そっか、てっきり……ボクが待っていてほしかったからかと」

「俺は超能力者か」

「……違うの?」


‪ ‬彼女の笑みに少し心臓を跳ねさせてしまい、誤魔化すように立ち上がる。


「明日までに書いて来いよ、進路希望調査票」

「……うん。 明日も、待っててね」


‪ ‬いつになったら、提出できるのか。 小さくため息を吐き出しながら、部活に向かった。


「……勉強、教えてくれる?」

「部活させろよ。 ……まぁ、引退したらな」


‪ ‬珍しく走って追いかけてきた安穂と廊下で言葉を交わしながら、いつもよりゆっくりと廊下を歩く。

‪ ‬隣で息を切らしている少女を見て苦笑して、もう一度ため息を吐き出した。


「……どうしたの?」

「いや、アホだな。 と思ってな」


‪ ‬面倒事が出来て嬉しいなどと、全くもって馬鹿げている。



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