北原①
「お前、またか」
俺はため息を漏らすしかなかった。
「だってさ亮一、あの子ずっといると面白みないんだよ」
北原悠介は煙草を燻らせながら薄ら笑いを浮かべていた。
こいつは基本悪い奴ではない。だが、こと女癖になると人格を疑うような行動を繰り返す。
彼女がいながら他の女に手を出す浮気性。高校時代からそうだった。
大学に行ってからもそうだった。高校時代、同じ学校内での手癖の悪さで女子生徒からの評判は地に落ちていたが、地方から出た大学生活という新天地で、彼の素行の悪さを知る人間は自分しかいなかった。
同じ軽音楽部に入った時、部活内で粗相を起こさないか心配でならなかったが、さすがに心得たのか、部活内に騒動を持ち込むことはなかった。だがそれは内部だけの話で、外では相当遊んでいたようだった。
そんな男が、とうとう部活内の常坂佳苗に手を出した。性質が悪い事に、佳苗も悠介に気がある事は知っていた。だから、それとなくだが悠介と同じ空間に自分がいるときは、彼と喋らせないようにしていた。
「分かった。私も注意しとく」
当時から付き合っていた美奈にも協力を仰いだ。なるべく佳苗と悠介を会わさないように。
だが、俺達の知らない所で二人はいつの間にか引き合ってしまった。そうなってしまってはどうしようもない。当然のように二人は付き合った。俺は内心終わったと思った。嫌な予感しかしなかった。
だが、予想に反して二人の仲は純愛のようで、予想していたような悪い事は起きなかった。それどころか、
「俺も頑張らねえとな。あいつの為に」
就活でお互い苦しんでいた時に、悠介はそう言ったのだ。
驚いた。佳苗との出会いで、こいつもようやく心を入れ替えたのだと思って、俺はそこでようやく安心したのだ。
だが、それは大きな間違いだった。
彼は結局働く事もせず、ぐうたらと毎日を過ごすどころか、佳苗をも裏切って見せたのだ。




