4.血鮫、決着
再び襲い来る牙から必死に逃れながら、隙をうかがう。
「はぁ……はぁ……」
血鮫のタフネスは凄まじく、何度突進を繰り返しても、勢いが衰えない。けど……
「ゴボッ……!?」
何度目かの突進を繰り出そうとした時、血鮫の体が痙攣しだした。
「よし…効いたわ……」
何をしたのかって?さっき、銛を壁に突き立てた時に、ドクドクウミウシを槍で刺しておいたのよ。
ドクドクウミウシは体液を少し吸い込んだだけで、体が痺れて動かなくなる。ましてや、まるまる呑み込んでしこたま体液を飲んだら、全身の筋肉が異常緊張して、それだけで死にかねない。
いや、ほんと、前に潰しちゃったときは大人と一緒だったから助かったけど、死ぬかと思ったわ。潰した時に出る体液だけでもああなんだから、呑み込んだら絶対に死ぬわ。
血鮫は、麻痺で動けなくなりながらもまだ息がある。さすがは大型の魔物、すごいタフネス。
「ふんっ!」
私は落ちていた銛を拾い上げ、軽くふるって、ウミウシの死体をとると、血鮫の目を刺して奥の脳を破壊して、止めを刺した。
「ふぅ、どーにかこーにか。」
あわよくば、サメの皮でも回収して、何かに使えればと思ったけど、毒に侵されているから、触らないほうがいいかな。申し訳ないけど脇の部屋に放り込んで放置しておくことにしよう。
でも、銛で引きずるには少々重すぎるわ……
「ええと、確か……」
私の口から紡がれる旋律が、魔力を孕んで辺りの水に働きかける。
血鮫の死体が、ふわりと浮き上がる。
「………ストリーム。」
水が意思を持ったように流れて、血鮫の死体を部屋の中に流し込んだ。
さて、大型の魔物もいたことだし、ちょっと注意深くいかないとダメかな?
そういう訳で、警戒しながら進んだけれども。これ以降はあんまり手ごわい魔物はいなかった。精々さっきより小型のサメや肉食魚やタコ襲い掛かってくる程度。問題なく銛で突き殺せる。
真珠が取れる大きな二枚貝、パールシェルもいたけど、襲い掛かってこないし、これはスルー。
え?真珠は取らないのかって?だめだめ、固すぎて私の力じゃ殻を開けられないわ。これでも魔物だから、開くときにおとなしくしてくれるわけでもないし。ドクドクウミウシの毒は緊張性の麻痺毒だから、毒殺しても殻は開かないし。やるなら、集落の男衆総出で殻ごとお持ち帰りしないと。
さて、どうやらさっきのブラックシャークがここの頂点だったみたいね。それ以外は危険度の少ないものばかりね。運がいいわ。