3.魔物
少し進むと、魚だけでなく、小型の魔物もいくらか見えるようになってきた。
魔物とは、魔力による変異で生また、普通の生物よりも強靭な生物たち。
こういう魔物は、魔力がたまった場所や不浄な場所に繁殖しやすいって聞いた。船の中は流れがよどんでいるし、きっとそのせいだ。
体内から光を放つヒカリクラゲが繁殖してて、窓がなくても明るいのはありがたいんだけど。毒毒しい色をした、猛毒のドクドクウミウシまで居るのは危なっかしくてやだな。
「……やだなぁ、触るだけでもかぶれるし、うっかり潰した日には大惨事だもの。生きた心地がしないわよ、まったく。」
そんなことを言っていると、船の廊下の向こうから、何かの気配を感じた。
小さな生き物とは違い、水を押しのけて進んでくる気配。
廊下の角から小魚たちが私の脇をすり抜けて逃げていく。
「な、何!?」
それらを追って、薄暗い廊下の向こうからぬぅっと現れたのは、血塗られたギラギラと鋭い牙に、血走った眼玉、次いで甲殻のように固く、テラテラと光沢のある赤黒い鱗に覆われた胴体が現れる。
「で、でたぁ!」
こいつはブラッドシャーク。他の生き物に襲い掛かり、食らいつくす、狂暴な大型の魔物の一種。
ブラッドシャークがこっちに気付いた。私は銛を構える。
ブラッドシャークが大きく口を開けて突進してくる。
「ぐぅっ!」
銛を使って突進をいなす。すれ違いざま刺突を繰り出すけれど、鱗が固すぎて通らない。
むしろ銛のほうが削られそうな勢いに、水を蹴って一旦距離を取る。
この銛も、元々は何処かから流れ着いた古い人間の持ち物を、騙し騙し使ってきただけだからなぁ。ちょっと錆びてるし。
今まで何回か魔物とやりあったことはあるけれど、鱗の硬くない魚や、鱗の無い軟体動物ばっかりだった。
だから、銛が古くてもあんまり問題にならなかったけど、いい加減どうにかしたほうがいいかな。
私は壁に銛を突き立ててブレーキを掛けながら、サメを挑発する。
「ほらほら!かかってきなさいよ!」
挑発するまでもなく、血鮫はUターンして再び突進をかけてきていた。
鋭い牙がずらりと並ぶ顎で噛み裂かれれば、私なんてあっという間に死んでしまうだろう。それでなくても、あの体を覆う鱗に触れるだけで、皮膚が裂かれてしまうことは間違いない。
でも、私はあえて正面から向かっていった。
鋭い牙が眼前に迫る。あと少しで…今だ!
「そぅれっ!召し上がれ!」
私は銛を投げて血鮫の口の中に放り込んだ。同時に素早く身をかわしてすれ違う。
目の前にいた私を噛み殺そうとしていた血鮫は、勢いよく口を閉じて銛を飲み込んだ。
嚙み千切られた金髪が数本、ふわりと水中に舞う。
「どう?これで…」
だが、血鮫はすぐに銛を吐き戻して、また私を追いかける体勢に入った。
「うぅ、効いていないの?」