鋼鉄×鋼鉄 [改訂版]
それはいつもの日課として歩いていた時に出会った。
瓦礫ばかりの崩れた家の中でたたずむ一人の少女、自分を見てビクリと震える少女。
この人の気配の消えた街で見つけたただ一つの命。
自分は手を伸ばす。
「行こう」
ただ一言。
それと同じか少し遅れて遠くからいくつもの瓦礫や元建造物を倒壊し、崩壊させながら近づくヤツがこちらに気付いたのがわかった。
声もなく、止まりもしなかったこちらが起こした行動に気付いたのかもしれない。
少女は自分を見るものの泣きじゃくって動こうとはしなかった。
しょうがないので俺は少女を運ぶ体勢にしてこの場を離れることとした。
逃げる、俺は逃げる。
崩れ去った廃都を走り、走り、走り俺は逃げるのだ。
「はぁ、はあ、はあ」
息が切れる。
胸が苦しい。
それでも俺は走るのだ。
胸に一人の少女を抱え。
倒壊し、崩壊したビルの跡を走る。
パルクールもしくはフリーランニングと呼ばれる事のまねごとをしながら、
俺は瓦礫の上を駆ける。
背後を見る。
ヤツはだいぶ向こうまで引き離せている。
よし、これなら。
「いいかい、ここにいて絶対についてきちゃだめだよ」
俺は少女を降ろしながら言う。
こくり、と少女は頷く。
「いい子だ」
俺は、もう一度ヤツを睨む、少し近づいていた。
ヤツは休むことはない。
障害物など気にしない。
休息を必要とし、障害物は文字どおり障害となるこの身では、いつか追いつかれるだろう。
だから、ここで、ヤツを倒す。
俺はもう一度走り出す。
今度はヤツに向けて!
一言でいうならヤツは蜘蛛だ。
だが、ただの蜘蛛ではない。
15メートル近い巨体。
しかもその体は黒い鋼鉄で出来ている。
旧時代の大軍兵機、ただ一機で多くの敵を殲滅するだろう多脚の無人戦車。
ヤツに接近する、その距離30メートル。
ちょうどあまり瓦礫のない平坦な場所だった。
――ここなら、行ける!――
右の足に力を籠める。
その瞬間、
足が、破裂し、吹き飛んだ、
そして、中から幾本もの鋼鉄の棒が――――
その鋼鉄の棒は増える、曲がる、姿を変えていく――
――そして、そこには足があった。
吹き飛んだ足ではない。
鋼鉄の足、その先足の裏に車輪ローラーの付いた足。
「ここで、倒れてもらう」
◇◇◇◇
彼は《加速》する。走っているのではない。
右足の車輪の回転により彼は、蒸気自動車ガ―二―より速く、加速する。
彼は蜘蛛の足の、下に潜り込む。
そして彼の、左腕が裂けて――
鋼鉄が伸びる、さきほどと同じように
そして出来上がる。
腕ではない、既にそれは腕ではない。
彼の腕は、蒸気式機関鋸に変わっていた。
それを蜘蛛の下腹部に向け、右腕で固定し。
弧を描くように振るう、何度も何度も。
蜘蛛の下腹部に微小の損害アリ。
彼は腕を振るうをやめない、振るえば振るうほど蜘蛛の損害はより深刻になってくる。
最初はただの傷だったものがついには削れた装甲に少しばかり穴が開いている・
蜘蛛は全力で足を振るう、しかし高速で動く彼を止めることはできない。
「URRRRRRRRRRRRRRR――――――!!!」
蜘蛛は一瞬、力み体を落としたかと思うと、幾本もの足を使い、全力で跳躍した。
「逃げたか、いや」
あれは今、倒さなければいけないと彼は判断する。
彼は全力で追いかける。
車輪のついた状態では瓦礫の上は走りにくいようで、距離を詰めれない。
だがなぜか、鋼鉄の蜘蛛は止まる。
「はぁ、はぁ」
瓦礫の山を越え、蜘蛛に追いつく、彼は左手を構える。
しかし、ここで気付く
蜘蛛の足が、鋼鉄の足が、可変し、鞭のように、しなり、少女を捕らえてることに。
そう蜘蛛は逃げるふりをして、人質を取ったのだ。
「この外道め、崩れて消えろ」
蜘蛛の口が開く、中から砲塔が顔を見せる。
標準は彼に、
そこから光が、彼に打ち込まれる。
鉛弾ではない、レーザーウェポンだ。
避けることはできない、人質がいる。
一筋のビームが彼を襲う。
彼は吹き飛ばされ、瓦礫に体をぶつける。
自らの発した光により蜘蛛の認識機関が止まったその一瞬、
彼の右腕が、破裂し、吹き飛ぶ。
そして、中から幾本もの鋼鉄が――――
その鋼鉄は増え、曲がり、姿を変えていく――
――そして、彼の腕の先にはレンズがあった。
吹き飛んだ腕でも、左腕のような蒸気式機関鋸でもない。
それを少女を捕まえている、蜘蛛の足へ向ける。そして、
――閃光が、一筋の閃光がその足を両断する。
蜘蛛の脚は鞭のようにしならせたため耐久度が落ちたのだ。
そして、蜘蛛は異変を感知する、だがもう遅い、少女は足から離れ、
彼は再度右腕を向けている。
放たれる光、今度は蜘蛛の口内のレーザーウェポンを破壊する。
彼は加速する、蜘蛛が口を閉じるより速く、近づく!
右足があまりの負荷に、もげる、だが左足で速度を殺さず跳躍する。
そして蜘蛛の口内に左腕を突っ込む。そして――――
「はああああああああああっ――!」
全力で中の機械を抉り穿つ。
蜘蛛は内部から無数の切り裂きをくらい、自動行動を行えなくなった
――ここに、戦いは決した。
◇◇◇◇
私は、倒れこんだ彼に近づく。
「ダイジョウブデシタカ?」
彼は私に聞く、感情のない機械音声。
「ええ、ありがとう、助かったわ」
人にお礼を言うように私は彼に言う。
彼は、それを聞いて微笑む。
そして、動かなくなった。
機械の騎士さま
この廃都に残され泣いていた私を助けてくれた。
鋼鉄の騎士さま
すでに、彼の体は動かない、先ほどの戦いでなにか壊れてしまったのだろう。
優しい騎士さま
個人用の護衛機械人形、この街に取り残された、命のない彼。
彼は仕事の一つとして私を助けただけだし、彼に感情はないはずだけど。
私は、なにかお礼をしなきゃと思い、少し考えた後。
――そっと、彼の額に接吻をした。
やはり、騎士にはお姫様のキスを与えるべきだと思ったのだ。
少し前に書いた鋼鉄×鋼鉄の改訂版になります。
結構変えたので改訂版として出します。