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神は難問に挑む

 リースたちが火竜に挑んでいる頃のこと。


 カザンの街の図書館はこのあたりでは比較的大きく、哲学書や宗教、文学書など様々な書物が保管されている。


 しかし、神様が紐解きたかったのは歴史書と地理書である。


 だが、昨日までそのふたつに関連する書物が全く見つからなかった。


 焚書?


 この国の王は神から秘宝を奪ったと、以前教会でニナに教えてもらった。


 王にとって都合の悪い歴史があったのか?


 また、地理に関しては、戦争中のときなどは、地形に関するものは作戦を立てる上で軍事上の機密となる場合もある。


 それでもどこかには残っているはず……。


 そこで神様は、図書館の地下の書庫を調べることにした。


 神様はこの街に来てから、白い布を巻きつけただけの格好から白いローブを羽織るようにようになっていたが、相変わらず目立つ。


 目立ちはするが、冷凍保存の施術で看護師に殺される前、神様は元神父時代に紛争地帯で数年過ごしたことがあったので、身を隠す方法も心得ていた。


 司書や他の人の視界から逃れながら、図書館の地下にうまいこと潜り込む。


 今は、神様は図書館の地下で山のような書物を床に広げていた。


 ランプの光がちらちらと揺れる。


「どういうことなんだ?」


 まず、歴史書を開いた。


 今が西暦4011年であることはカレンダーなりで分かる。


 つまり、自分が冷凍保存されたときの20**年だったのだから、その頃の歴史が書かれた書物があるはずなのだ。


 名前がリースとかニナとかだから、ここが日本ではないという予想はつく。


 だから大震災だとか、徳川家康が〜、とかいったことは見つからなくても、第2次世界大戦とか世界的に有名なできごとはどこかに記述されているはずなのだ。


 それなのに見つからない……。


 それどころか、具体的な歴史に関する記述がされた文献が全くない。


「本当にどうなっている? この国は文明ができて浅いのか……?」


 いや、待てよ……。


 神様は次に世界地図を探し始めた。


「どういうことなんだ!」


 地図を広げて、神様は驚いた。


 大陸が3つしかないではないか。


「いや……例えば、オーストラリア大陸と南極大陸が巨大隕石により消失。

 この大陸の繋がり方は北アメリカと南アメリカに似ているな。

 確かに形は違うが隕石の落下で説明できなくはない……。

 でも、そうすると2つのアメリカ大陸が北極の方へ移動したことに……。

 さらに長い年月を経てユーラシア大陸とアフリカ大陸が合体?

 加えて北極の氷が全部溶けて島国が全部沈んだとすると……」


 無理やりではあるけれど、2000年近くも経っていれば、可能性はある。


 元神父である神様は、以前、神学とともに地理的歴史的観点で神の教えがどのように広まってきたのかを学んでいたため、そのあたりの知識は豊富であった。


 豊富であったが故に、混乱を極めた。


 ふと、地図の左上に書かれていた縮尺を見る。


「まさか……!」


 せ、世界がちいさい!


 北極から南極までの距離は2万キロメートルだ。


 だが、この地図を見ると、その半分ほどしかない。


 神様は大急ぎで図書館を飛び出した。


 あれだ、あれが必要だ。


 ニナなら持っているはずだ。


 ニナはどこだ?


 神様は街中を走り回った。


 居た! あれはニナに間違いない!


 店で物色していたニナに駆け寄る。


「そんなに急いでどうなさったのですか?」


「いや、なに。ちょっと急いでいてね。

 ところで、長さを測る巻き尺とかは持っていないかな?」


 息を切らしながら問う。


「巻き尺ですか? もちろんございますよ。

 商人に必須のアイテムですから」


「ちょっと、貸してくれ」


 差し出された巻き尺を縦に伸ばす。


 足元から頭の高さまでの長さを測る。


 自分にとって最も馴染み深く、信頼のおける長さーーそれは身長だ。


 巻き尺を読み取ると長さ185センチメートル。


 自分の身長と同じだ!


 神様はリースと違い、顔貌や性別など外見は冷凍保存時に死ぬ前と変わっていない。


 これで、1メートルという長さがこの世界でも同じだけの長さだということがわかった。


 そうなると、結論は唯一つ。


「ここは地球ではない……!?」


 ニナは不思議そうに神様の顔を見ていた。


「神様?」


 神様はしばらく混乱し、その後悟った。


 まずこの世界のことを知らねばならない。


 その理由は、人が子どものときに地理と歴史を学ぶ理由と同じだ。


 地理を学ぶのは自分が足をつけるこの大地の広さを知らねば、井の中の生き物と同様になってしまうからである。


 歴史は、過去どのように時代が進み、「今」が作られ、これからの未来がどこに向かうべきなのかを教えてくれるからである。


 とにかく、人は第一に地理と歴史の上に立っているのだーー神様はそう考えていた。


 詰まるところ、神様は不安なのである。


 図書館をあとにして、宿に戻る。


 宿の1階の酒場ではリースたちがどんちゃん騒ぎをしていた。


「この能天気娘……」


 神様は疲れた顔で、悪態ついた。

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