ヤブ看護師はまた人を殺した 〜2人目の転生〜
ある日、白衣の天使こと、この私、雨森 恵は神父様の施術を行いました。どんな施術かといいますと、人体の冷凍保存なのです。このご時世、自分が今の時代に不適合と思ったら、体を冷凍保存してお好みの未来で目覚める、そんな夢のような施術を希望する患者さんが増えているのです。
そんな夢のような技術なのですが、冷凍保存にかかる代金はなんと4億円!
誰が出すというのでしょう? 答えは目の前のこんな人。
「この施術って莫大なお金がかかるのに、神父様って儲かるお仕事なんですか?」
手術着に着替えた神父様を施術台に寝かせます。
「いや、なに。信者たちのお布施で賄っているし、普通は教会の運営に使ってしまうのだがね。表には出せないお金っていうのも入ってくるんだよ。例えば裏金とか、○✕団の資金とか。税務局とか公安なんかに目をつけられて、隠しきれないお金を置いていくんだよ」
バリカンで頭の毛を剃っていきます。冷凍するときに邪魔だからです。
「へー。それで億単位のお金が」
「ああ、そうなんだよ」
「でも若いのにすごいですねー」
「ははは。そうかい」
そうなのです。神父様は26歳なのです。どうやったらこの若さで神父様になれるのでしょう。
「でもいいんですか? 神様が見ていたりしちゃいません?」
「か、か、か、神!? 神など、いるものかあああ!」
「ひいい。お、落ち着いてくださいいい」
私はタブーを口にしてしまったみたいです。
「神などいない! 神などいない! 神はイナイ!! 世界を見てみろ! 神がいると思うか! どんどん死んでいる、どんどんどんどんどんどん! たくさん死んでいる、なんの罪もない人たちが! いるのは悪魔だけだ!」
「は、はい。すいません。悪魔います! 神様いません!」
焦りました、ほんとうに。ビビりました、ほんとうに。
「よ、よし、わかればいいんだ」
「(こ、この神父さん、アブナイ)」
怖いので、工程をすっ飛ばして冷凍することにしました。本当は心臓の鼓動を10秒に一回という遅さにする薬を注射して、疑似冬眠状態にしてからゆっくりと体温を下げるのです。これには、血流を緩やかにする意味もあるんです。だって、そうしないと血液の中に氷の粒ができたときに、血流が早かったら、その粒が弾丸のように血管を突き破るんです。
はい、やっちゃいました。
ビタンビタンビタン。
「ド、ドクター! 患者さんが全身から内出血して、全身痙攣起こしてビタンビタンいってます!」
「な、なに!? くそ、もう手遅れか……。DNAを採取してクローンを培養するんだ」
「はい、いつも通りですね。了解です!」
確かに神父様のいうとおりです。今まさに、なんの罪もない人が天に召されたのでした。