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美少女は永遠を望む 〜3人目の転生〜

 優奈ゆうなは自室で鏡を見詰めていた。シワもシミもひとつない白い肌。あたしの美、それがあたしの誇り。それなのに……。


 20歳に近づくにつれて、「美」が衰えていくのを自覚する。鏡に映る自分の目元にクリームを塗り込む。


 もう限界だ。これ以上、醜くなるなんて許されない……。だから、あたしはある施術を希望したのだ。


「ねえ、あたしって看護師さんから見てもきれいでしょう?」


「ええ、羨ましいくらい。モデルとかやっているんですか?」


 看護師の女が施術台のリクライニングを倒す。


「大した雑誌じゃないんだけど○✕のね」


「わー、それってかなり有名な雑誌じゃないですか」


「そうでもないわよ。そういう看護師さんだって、かわいい」


「そんなことないですよー」


 もちろんウ・ソ。心の中では、二十歳を超えて化粧で誤魔化さないといけないこの看護師の女をあざ笑う。


「でもどうして冷凍保存をご希望なされたんですか?」


「決まっているでしょ。この美しさを保ったまま未来に行くためよ」


「なるほどー。でもかなりお金かかるんですよ?」


「貢いでくれる男は山ほどいるの」


 そういって髪をかき上げる。あたしに酔わない男なんてひとりもいない。


「あ、動かないでください。

 冷凍中に動くとひび割れてしまうので体をベルトで固定しますね」


「ええ。痕がつかないようにしてね」


「はいー」


 頭と両手両足を台に固定される。高校にあがるときにスカウトされて雑誌のモデルを始めた。上を目指して色々なオーディションを受けたけれど、芸能界からは声はかからなかった。歌も得意だったので歌手も目指したけれど、そっちもさっぱりだった。どいつもこいつも、見る目がないんだ。未来では成功してやる。


「きれいな髪でもったいないんですけど、全部剃りますね。冷凍のためには仕方ないんです」


「あ、ええ……仕方ないものね」


 ブロンドに染めたきれいなあたしの髪をハサミで切っていき、その後バリカンで剃っていく。やだなあ……あたしの髪……なんだか切なくなる。丸坊主の自分なんて想像できないし、誰にも見せられない。でも仕方ないんだ。これも永遠の美を手に入れるため。きっと未来には、今なんかよりもっといい美容液とか化粧品があるはず。


「心臓の動きを遅くする注射しますよ。眠くなりますので、そのまま眠気に身を任せてください。目が覚めたときには未来ですよ」


 目を閉じる。腕にちくりと痛みがした。少しずつ頭がぼーっとしてきた。施術台にはローラーがついていて、ごろごろと何かの装置の中に体が収納される。まるで映画でみた死体安置所みたいだ。


 シューっとガスが入る。


 あたしは頭が悪いけれど、このガスがなんなのか分かる。液体窒素だ。マイナス200度で体を冷凍するのだ。臭いが鼻につく。卵の腐ったような臭い。


 の、喉が、い、痛い。


 い、息が、く、苦しい。


 ア”ァァァア”ア”ア”ア”ーーー


 バタンッ、勢い良く施術室のドアが開く。


「あ、雨森君! ガスラインに液体窒素じゃなく医療用硫化水素ガスがつながっている! 業者がつなぎ間違えたんだ! 今日の施術は延期だ!」


「へ? あ、あの、ドクター……。も、もう手遅れ……」


 な、何を言っているの、あの2人!?


「な、何!? ああ、なんてことだ。あんな美人だったのに。硫化水素にやられたら全身斑点だらけで腐った卵のような悪臭を撒き散らす死体になってしまう!」


 ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ!!


 醜い斑点なんてヤダ!


 腐った卵なんてヤダ!!


「ちゅ、注射しました、さっき。針に血がついています。DNA取れます。クローン作れます!」


「なに!? よし、高速培養器にかけるんだ。彼女は一応有名人だから失踪は困る!」


「はい! 手早くやります!」


 ヤブイ"ジャァアアーー!!


 そこであたしは意識を失った。



***



「やっちまった……」


 足がガクガクと震える。


 医者と看護師がクローンを作るために注射器からDNAを取り出しているとき、その部屋の外の廊下でガスラインをつなぎ間違えた業者のエンジニアが中の会話をすべて聞いていたのだ。


 彼は、ガスラインの接続ミスに気づき、車をUターンさせて急いでここに戻ってきたのだ。


「お、俺が殺しちまったのか……。俺のミスで……」


 ど、どうしたらいいんだ。会社をクビになるのはイヤだ。いや、それよりも刑務所はイヤだ。俺には、妻子がいるんだ! 妻子まで巻き込んでしまう、どうしよう……。


「そ、そうだ!」


 医者と看護師のせいにしよう! なんかクローンをつくって患者が死んだのを誤魔化そうとしているし!


「け、警察だ。警察に電話するんだ」


 スマホを取り出し、震える手でなんとか番号を押す。電話はすぐに出た。


「あ、あの、さ、殺人を目撃しました」


 その声は上擦っていた。

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