伝説の剣
リースのレベルは、火竜と戦った(見ていただけだが)ことで20にまで上がっていた。
朝早く、リースはロプトルのもとを訪れていた。
「まさか本当に火竜の牙を手に入れるとはのう。
どれ、しばらく待っておれ」
そういってロプトルはふいごで炎を強めると、火竜の牙をその火炎で熱し、小槌で打つ。
打っては火炎に晒し、熱した牙をまた打つ。
それを何度も何度も繰り返す。
火竜の牙が金属のように薄く伸びていく。
しばらく待っていると、長さ2メートル、横幅の30センチほどの大剣が、台座に現れた。
「なかなかのものじゃな。この出来なら、150万イェンじゃ」
「わあ」
感嘆の声を上げ、大剣を手に取る。
思いの他、軽い。
ゲームなのだから、そんなものか。
剣を見るとその銘が頭に浮かぶ。
アイテムを手にもつと、そのアイテムの名前がわかるのは、ゲームの仕様なのだろう。
銘はレヴァンティン。
どこかで聞いたことのある名前だ。
確か北欧の神話に出てくる剣だ。
「これがあれば王様の城に乗り込めるかな」
ぽつりと言った言葉に、ロプトルは持っていた小槌をぽろりと落とした。
「なんじゃおぬし。王様に盾突こうってのかい。
そりゃあ税金も高いし、悪い噂も聞く。
それで王様に歯向かう連中も、後を絶たん。
けれど、みんな失敗じゃ。
釣るし首にされた奴もいれば、ギロチンでやられた奴もいる。
あんた、本当にやろうってのかい?」
「はい、もちろん!」
リースは天真爛漫に答えた。
だって、そういうイベントなんだもの!
そして神様の秘宝を取り戻すのだ。
「なんと潔い。決して死なんでくれ。
焔の魔剣、レヴァンティンがきっとお前さんを守ってくれるじゃろう」
「うん。ありがとう。
はい、150万イェン」
サクッと大金を払う。
「確かに。達者でな」
リースはロプトルに見送られ、その場を後にした。
太陽は地上を最も暑く熱する角度にあった。
「神様はまた調べ物かな?
うーん、まだ昼過ぎだしどうしようかな」
街に戻ったリースは大きな剣、レヴァンティンを背負ってぶらぶらしていた。
そうだ、暇だし街の外に出て試し切りしてみよう!
道を外れて林の中に入るとすぐにイノシシのモンスターが出てきた。
背負ったレヴァンティンを抜く。
突進してくるイノシシに対して思い切りレヴァンティンを振り下ろす。
焔が巻き起こり、斬るより先にイノシシを焼肉にしてみせた。
焼肉になったイノシシもまるでケーキを切るように簡単に真っ二つ。
「おぉぉお、スゲー」
ってあれ。
急激に眠気が襲ってくる。
「ま、瞼が重い……。眠い……。
でも、こんなところで寝るなんて……」
寝てしまっては目覚めたときにどうなっているか分かったものではない。
別のプレイヤーにレヴァンティンや有り金を盗まれたりするかもしれない。
モンスターに食べられちゃうかもしれない。
リースはレヴァンティンを杖代わりにしてなんとか立っているが限界だ。
もしかして、眠りの魔法?
辺りを見渡すが真っ二つになって焼けたイノシシが転がっているだけで敵はいない。
アイテム欄から、眠気覚ましのポーションを選び飲み干す。
「ね、眠い……」
全く効き目がない。
もしかするとMP切れとかSP切れかもしれない。
そう思い、自分の状態を調べてみるとMPとSPが空になっていた。
アイテム欄から回復のポーションを選ぶ。
MPとSPを回復するポーションを飲み干したところで、ようやく眠気が覚めた。
どうやらレヴァンティンを使うとMPとSPを消費するらしい。
そして、MPかSPかを使い果たすと眠くなるらしい。
レヴァンティンのパラメータを見ると、MPとSPを全て消費してその分のダメージを敵に与える、と書いていた。
「これ、もう呪いの魔剣じゃん!」
これでは諸刃の剣だ。
リースは急いでカザンに戻る。
ポーションがもうないので、モンスターに遭遇するわけにいかない。
またレヴァンティンを使ったらMPとSPがなくなって寝落ちしてしまっては、ほんとに死んでしまう。
運良くモンスターに会うことなく、平らにならされた道に出る。
人通りがそれなりにあるので、盗賊もいない。
街に戻ると、ポーションを売っている薬屋に行くと、大量にポーションを買い込んだ。
MP全回復のポーションとSP全回復のポーションはどちらも2イェン(5千円)もする。
しかし、お金はたんまりとあるので、一つのアイテムを所有できるマックスの999個を購入した。
全部で3996イェンである。
冷凍保存前の価格に換算すると、999万円である。
薬でこの価格はなかなかすごい……というか誰がドラッグストアで1000万円近い買い物をするだろうか。
もちろん、こっちの世界でもあり得ないので、店頭に並んでいるポーションだけでなく、カウンター裏の倉庫の中の在庫も空になったので、リースが店を出ると「本日、店仕舞い」と張り紙が扉に掛かった。
店主は張り紙するときに、「どうぞご贔屓に〜」と揉み手してリースを見送った。
これでリースの所持金は697994547イェンになった。
いくら所持金があってもポーションを買っても空中に浮かぶアイテム欄に入れると形がなくなるので、たくさん買っても持ち歩けるので便利である。
兎にも角にも、これでレヴァンティンを気兼ねなく使用できる。
金さえあれば、伝説級の剣だって扱えるのだ。