表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/28

スパイス4

男は静かな圧し殺したような声で言った。

「静かに、決して音を立てないで。私は君たちを助けに来た。」


僕達がその台詞を聞いたとき、どんなにこの男が輝いて見えたことか。

男は早口で簡潔に話をした。


今から15分後に見張りが交代する時間が1分だけあること。

その隙をついて走って逃げること。

朝までは気づかれないようにするが保証は出来ない。出来るだけ遠くまで走る必要があること。


それらを話したあと、男は周辺の地図を僕にわたした。

「君が他の人たちを連れて逃げるんだ、良いね?」

僕は自分が指名されたことに驚いたが、小さくそして力強く頷いた。


「あと10分程度で決行だ。各々心の準備をしておいてくれ。それから君には1つ頼みがある。」

男はそう言うと僕の目を真剣な目付きで見つめた。

何だろう、この男から並々ならぬ覚悟を感じる。


「私はもしこの行為がバレれば無事では済まない。恐らく今の軍の状況ならば、反逆罪として処刑されるだろう。」

「だから、もし私に何かあったら私の家族を助けて欲しい。父親を無くした家族は必ずこれから先苦労する。この戦争は恐らく君たちの国が勝つだろう。そしたらますます私の家族は厳しい現実を突きつけられる。」

「だからこれは取引だ。君たちを助ける変わりに私の家族を助けてくれ。実をいうと、私は病気でどっちみちもう長くはない。だから、私にはもう家族を困難から守ることが出来ない。これは君が、必ず約束を果たす男だと信じての取引だ。どうする?」


ぼくはその問いに、この男の全てを見た気がした。

そうか、この男にとって戦争なんてどうでも良かったのか。この男にとっては家族を守れればそれで良い。

その為なら敵の命を救って自分を犠牲にしようとも。

勿論、この男の元々の人の良さ、それも無ければ僕達を助けるなんて考えには行かなかっただろう。

僕は初めてこの男に対して、真剣な眼差しで力強くこう言った。

「任せてくれ、必ず君の家族を守り抜く」

男はその言葉を聞くと、ニコリと笑った。

笑った後に涙を流し、そのまま口を開いた

「ありがとう。どうか生き延びてくれ。」

僕は男から家族の写真や住所、家族に信じてもらえるために直筆の家族への手紙を受け取った。

そして、最後に男は手をさしのべ言った。

「最後になるが、私の名前は園原。園原真二だ。よろしく頼む」

「僕の名前はディーン。ディーン・マイスだ。救われるこの命の恩に報いるためにも、必ずご家族を守り抜くよ。」

僕は園原さんの手を固く握りそう答えた。


時間は無情にもそこで終わりを告げた。

もっと話がしたかったが、ここで全てを無駄にするわけにはいかない。

「そうだ、これを忘れるところだった。最後になるがいつぞやの礼をしてなかったからね。疲れたときにでも開いて食べてくれ。」

園原さんはそういって、僕達を牢から出したあと、一人一人に小さな包みを渡した。

「さぁ、行って!必ず生き延びて故郷に帰ってくれ」


それが男から聞いた最後の言葉だった。











それからの事はよく覚えていない。

予想外なほどにあっさりと僕たちは逃げ出すことが出来た。

途中小休憩を挟み、何気なく園原さんからもらった包みを開けた。 そこには、小さなおむすびが1つ入っていた。

僕たちは泣きながらそれを食べ、必ず生きて帰ろうとまた走り出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ