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スパイス1

オレンジのムースにキウィの身が乗り、マンゴーとミルクのソースがかかったデザートを運んでくると、男は話し出した。


「えーっと、何処から話せば良いのかな。あ、まずは僕の名前だね。僕の名前はディーン。 ディーン・マイスだ。だからこれからはディーンって呼んでくれたら嬉しいな。」

初めて正式にこの人から名前を聞いた。さすがに名前で呼ぶのは恐くて出来ないが。

私は困ったような顔をすることしか出来なかった。


「あぁごめん、別に言い方なんて何でも良いよ。そのうちもし慣れれたらね。」

慣れるというのは何にだろう。

私が何かに慣れると言うのはどちらかと言うと、辛いことに慣れると言う意味の方が強くなってしまう。

この人がそおいう意味で言っているのでは無いことくらいは分かっている。


「僕がこうして、君の前に現れたのは決して偶然なんかじゃない。僕がこうして君を連れ去ることが出来たのは必然だ。ただ、あまりにも迎えに行くのが遅くなってしまった。 辛かっただろう?死ぬほど厳しく容赦ない6年間だったろう。 すまない。こんなになるまで見付けられなくて本当にすまない。」


そおいうと、男はあろうことかその頭を地面に擦り付けた。擦り付けながら泣いている。

この人はなにをしているのだろうか?何を謝っているのだろうか。それになぜ私のあの地獄の日々が6年間だと知っているのだろうか。

先程までの暖かく緩やかな雰囲気はもはや感じられない。

私は混乱しながらも何とか声を掛けることにした。

「すいません、私にはあなたが謝っている理由が分かりません。それに聞く感じでは、あなたは私のことを知っているのですか?」


主人はその質問に対して、「あぁ、知っている。直接あったことは無かったがよく知っているよ。毎日しつこい位に君の話を聞かされていたからね。」

と姿勢を変えずに答えた。

私は慌てて、姿勢を戻して欲しいと伝え、ようやく顔を見合わせて話の続きが出来るようになった。


「あの、私の話を聞かされていたってのは誰にですか?私は国外に知り合いなんていない筈ですが。」

こう言った後に数秒して、私はハッとした。

いや、一人いるじゃないか。

国外に送り込まれるような形になった、私の幸せだった時の記憶の人が。私の大好きな人が。


「彼と出会ったのは5年前。場所は戦場のど真ん中だったよ。彼の名前は決して忘れることが出来ない、僕の命の恩人だ。名前は園原。園原真二さん。君のお父さんだね。」


身体中に電気が走ったような衝撃を覚えた。もう二度と聞くことすら叶わないんじゃないかと思っていたお父さんの名前。大好きなお父さんの名前が聞けた。

会いたい、、、

そんな思いが頭を過り、私は主人に無礼を承知で質問した。

「あの、お父さんは今どこに?」

その質問に主人はとても悲しそうな顔で「すまない」とだけ言った。


それで十分に理解した。

戦地に出た時点で生きて帰れる可能性はとても低かったのだ。

それでも だからと言って私はそれを聞いて平気でいられるほどに覚悟していた訳ではない。

暗い地獄のような生活の中でもお父さんの笑顔を思い出して、何度死ぬのを我慢することが出来たか。


いつぶりだろう、私の目からは自然と涙が溢れていた。

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