スィートポテトの黒ごまのせ(大学芋風味)
マリアージュさんの店でランチを食べてから1時間ほど経ち、私たちはスリジエに帰ってきた。
ディーンさんとの仲はともかく、味や料理に対する姿勢は本物だと感じた。素直にそういった点は尊敬できる人だったな。性格は、、、だけど。
『腹がたつけど、見習わないといけない部分もあるだろ?ただやっぱり予想通りつまらんことを企んでたね。』
そう、実は店を出る前にマリアージュさんから驚きの言葉を聞いたのだ。
『本日は起こし頂きありがとうございました。特にさくらさん?またいつでもいらして下さいね。』
そんな挨拶に私も出来る限り微笑んで返そうとしていたが、ディーンさんはそれを遮り言った。
『で、結局何が望みなんだ?わざわざ料理を僕らに食べさせたかったわけじゃないだろ?』
半笑いでマリアージュさんが答える。
『あいにく、私も暇じゃないんでね。実は用があるのはそちらのさくらさんの方だよ。』
『さくらに用?なんでお前が?』
ディーンさんの言葉には一切振り向かず、私の方をじっと見てマリアージュさんが口を開く。
『さくらさん、こんな話を聞いたことあるかい?とある地方で奴隷の女の子が中年の男に盗まれたって話。』
私とディーンさんは、顔が青ざめた。
なぜこれをこの人が?一体どこまで気づいてる?
いや、これを私に言うということはほとんど気づいてる?
私が返事をできずにいると、畳み掛けるように、
『あれ?どうしたんですか?知ってるか知らないかだけでも教えてくれません?それによって話が変わってきますので』
更に詰め寄るマリアージュさん。
『その反応はどうしたんだろう?なにか心当たりでも.,..』
『その辺にしといてもらおうか、うちの従兄弟の子に対してそれ以上あらぬ疑いをかけるのは。』
気づけば血の気が引いて頭が真っ白になっていた私の前に、サッとディーンさんが庇うように出てくれた。情けないがディーンさんの背中を見てすごくホッとした。
『ふーん。従兄弟の子ねぇ。』
ほのかに笑っているその顔が今はとても恐ろしく見える。
そんな様子のマリアージュさんにディーンさんが珍しくイラついたような態度で話す。
『なにか言いたいことでも?』
『いや、言いたいことはないよ。私からしたら、さくらさんがどこの奴隷だろうと従兄弟だろうと知ったこっちゃない。ただ、、』
しかめっ面のまんまディーンさんが聞く。
『ただ、なんだ?』
『この疑いをこのまま私の胸の中に大切にしまっておくか、周りのみんなに相談するかは君たち次第だ。』
『それは脅しか?』
『どうとるかは君たち次第だよ。まぁ私の胸の中にしまう為の条件は簡単さ。一つ仕事を引き受けてくれるだけでいい。』
マリアージュさんの顔が生き生きとしてきた。どうやら、初めから狙いがあったのだろう。それを見抜いてかディーンさんが話す。
『やっぱし、そおいうことだろうと思ったよ。手短に話せよ』
『さっすが、名店スリジエの店主様は話が早い。 まぁ簡単に言うと、とあるお客さん方にランチを一週間ほど出してあげるだけでいいんだ。もちろん報酬だって出る』
『そんな話をお前がわざわざ僕たちに頼むわけ無いな。大方面倒な客を王宮に押し付けられたんだろ?』
ディーンさんの言葉を聞いて、大げさに驚いたような顔を見せたマリアージュさん。『すごいね、よく分かったなー。そうそう、そうなんだけどね、ちょっとそのお客さんたちはうちの店の雰囲気には合わないんじゃないかなーって思っててね。どこかいい店紹介できないもんかと考えてたんだ。』
『で、誰なんだ?人数は?』
少し間を置いて、マリアージュさんが答える。
『第2師団。まぁ兵隊さんたちだね。数は8名ほど。』
意外な答えが返ってきた。ディーンさんも私も驚きでしばらく言葉を失った。
そんな様子を見て、マリアージュさんは続ける。
『いやー、正直言って店に兵隊さんが来るのって他のお客さんが怖がるだろ?でもその点君の店なら貸切にできるしさ!』
その言葉を聞いたあとしばらくの間沈黙が流れる。
そしてディーンさんがゆっくりと喋り出した。
『引き受ける条件がある。1つは今回の件で二度と僕らに脅しをかけてくるな。2つ目に王宮から出された報酬金は全額こちらが頂く。これが飲めないのなら、好きにすれば良い。』
ディーンさんの言葉にマリアージュさんはニヤリと笑って答える。
『いやいや、最高だよ。ありがとう。やっぱり持つべきものは友だなぁ。』
そお言いながら握手を求め、ディーンさんはそれを払いのけた。
『ちなみにいつからだ?』
『あのー言いにくいだけど、3日後からなんだよなぁ。』
三日後!!
私とディーンさんがあっけにとられていると、『大丈夫、こちらからもスタッフの応援をよこすよ。今ちょうど買い物に行ってるから帰ってきたらそっちに向かわせるね。あと、これよかったらメニューの考案のお供に甘いものでも。』
『何が大丈夫だ!さっそくひと事かお前は!さくら、とりあえず急いで帰って作戦を練ろうか。』
『え、あ、はい!』
そおいって、店を出ようとすると、マリアージュさんは珍しく真剣な顔つきでいた。
『ディーン、ありがとう。』
それは初めてこの人の本心からの言葉のように聞こえた。
何かこの仕事を引き受けられない別の理由があったのかな?
そんな風に考えてしまう、そんな顔つきだった。
そおして私たちは、スリジエへと帰ってきた。
私たちはお茶とマリアージュさんから渡された、デザートを食べながら作戦を考えた。
スィートポテトに大学芋風味のソースがかかった珍しい味。
この味、明らかに私の生まれた国の味付けを意識している。
あの人いったいどこまで分かってるんだろう。
最後にやっぱしマリアージュさんのことが少し怖くなった。




