お通し3
私の卵焼きを口に運んだディーンさんは静かに呟いた。
「うん、美味しい、美味しいんだが、、、」
少し言いづらそうな顔をしている。
この反応を見て、ディーンさんが私を傷つけまいと言葉を選んでいることがすごく伝わってきた。
それと同時に自分の料理がどこかダメな所があったのだろうと分かり申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「あ、あの、正直に言っていただいてかまいません。お口に合わなかったんですよね?」
「いや違うんだ!お口には凄く合ったんだよ。美味しいのは間違いないんだ。ただ、合わないのは口ではなくてワインなんだ」
ワイン?
聞きなれない言葉が飛び出してきた。
付け合わせのことかな?
私がワインとは何か分かってない様子を見て、ディーンさんが説明してくれた。
「あーごめん。ワインってのはこの国でよく飲まれてるお酒だよ。簡単に言うとブドウを発酵させて作られているんだ。」
なるほど、それは盲点だった。
ディーンさんの言いたいことが分かってきた。
「つまり、そのワインていう飲み物には合わないってことですね?」
「さすが、察しが良いね。それともう一つ。僕の店の料理は基本ワインに合うような料理が多いんだ。つまり他の料理とのつながりもおかしくなってしまうんだ。何度も言うがこの料理単体では凄く美味しいと思うんだ。どうしたものか。」
ディーンさんは本当に困ったようにうなずいて、頭を抱えている。
そこまで考えさせてしまっては申し訳ないと感じる。
それに卵焼きは基本的に私の国のお酒やお米と一緒に食べるものだし。多分あれこれ考えても仕方ないと思う。
私はディーンさんに断りをいれるつもりで
「あ、あの私の国でも卵焼きは朝や昼に食べることが多いですから。他のも試してみますね!」
そういって厨房に戻ろうとした時。
「いや、待てよ。桜、卵焼きは朝や昼に食べるものなのかい?」
ディーンさんが久しぶりに顔を上げるとそうきいてきた。
「はい、そうですが、それがどうしました?」
なんだろうディーンさんの表情が少し明るくなったような。
「良いことを思いついた。桜、この店のランチは君に任せてはダメかな?卵焼き以外にも君の国の料理でメニューを固めて出すんだ!そうすれば解決じゃないか!」
あまりの提案に私は固まってしまった。
たった数日の付き合いでこの人のことを全て分かっている訳はないんだが。
意外と、とんでもないことをサラッとしようとする人なのかな。
そういえば、奴隷商から私を強奪?していたし、、、などと考えていると。
「どう思う?」
とディーンさんが聞いてきた。
しかしすぐに返事をできるような内容でもない。
ディーンさんがここまで一生懸命作り上げた店だもの。
それを訳の分からない小娘が異国の人からしたら訳の分からない料理を出して、大丈夫なものか、、、
不安しかないな。
「あの、私なんかがそんな、、」
そんな言葉でどもっていると、私の心情を察したのかディーンさんが言った。
「まぁすぐにとは言わないさ。いずれ君にその気が出来たら声をかけておくれ。」
私は少しか細い声で、はいと返事をした。