お通し
昨日はあれから具体的なこれからの方向性をディーンさんと話あった。
「桜がやる気になってくれて嬉しいよ。明日はお昼のランチ営業はせずに夜の部だけでやろうと思っているんだ。
店の前に張り紙も出しておくよ。
それで桜にはまずお客さんに出す前菜を作ってもらおうと思うんだ。
いきなりメインてのも気がひけるだろうし。
あぁ因みに前菜といってもうちはコース料理の店じゃないから、全てのお客さんが頼むかは分からないけどね。」
「前菜ですか。軽めにサラダなんかが良いですかね?」
「そこは任せるよ。でもどうせ出すなら桜の一番自信のあるものを出すといい。そうすればきっとお客さんも喜んでくれると思うよ。」
「自信のある前菜ですか、、
お通し的なものでしたら作れそうですけど」
「お通し?なにかはよく分からないけどまぁそこは任せるよ!」
「わかりました!やるからには全力で頑張りますね。」
そこから私は自分なりに納得のいく前菜を作り始めた。
やってみると様々な問題にぶつかった。
そもそも私はお酒を呑むような歳でもないし、奴隷時代はともかく家族と過ごしていた時もあっさりしたものを作ろうという気にはあまりなったことがない。
お客さんが初めに口にする可能性の高い料理。
どんなのが喜ばれるのだろう。
などと頭を悩ませていると、見かねたディーンさんが声をかけてくれた。
「あまり悩むことはないんだよ。桜の料理は間違いなく美味しいし、この国では食べることがほとんど出来ないものばかりだ。きっとお客さんは喜んでくれるさ。」
「ありがとうございます。因みにディーンさんは前菜にはどんなのが欲しいですか?」
「うーん、僕はお酒を呑むことも多いから、少しの量で濃いめの味付けのものが好きかな」
「な、なるほど。」
ディーンさんはお酒呑むんだ。でも私にその気持ちは分からないからなぁ。うーん。
「桜なら何が食べたいか、それでいいんだよ。」
私が何を食べたいか。
そんなので良いんだろうか。
そういう視点で考えてみるなら
私が好きなのはからあげと、
はっと気づいた。そうだあれならメインの前に食べれてお酒を呑む人も呑まない人も喜んでくれるはずだ。
私は急いで調理器具と材料を確認し、調理にとりかかった。
そんな私の姿を見て、ディーンさんは嬉しそうに笑っていた。
その姿はかつて私が料理を作っているとき、見守ってくれた両親の姿のようだった。