スープハンバーグ
昨日はあれから、ディーンさんにあれこれとたくさんのことを質問された。
よっぽど私の作った唐揚げが気に入ったのだろう、とても興奮した様子で矢継ぎ早に喋る様子からこの人の料理に対する本物の思いを感じた。
結局夕飯(私は昼夜が逆転していたので、朝食かも)を食べたあと、外が明るくなるまで紅茶を呑みながら語りあかした。
その後二人とも、夕飯を食べたとは言え、お腹が空いたので街へと何かを食べようと出掛けた。
今私がいるのは、街の中心街にある一軒の店だ。
朝まで空いている貴重な飯屋だと教えてくれた。
しかし朝まで空いているとかはどうでも良いくらい、この店は色々とぶっ飛んでいるように見えた。
まず店の外観だが、まるで娼館かと見間違えるようなド派手な色で塗装されたピンク色の建物。
店名らしき文字が店の扉に書かれているが、グチャグチャになりすぎて何と書いているのか分からない。
一言で、これはヤバイと思えるこの見た目だが、中はそんなでもない、何て期待はすぐに消え去った。
店の扉をディーンさんが開くと、中には際どい服を来たこれまたド派手な女性が何人も働いていた。
あれ?私もしかして売られるの?
そんな不安も少し頭をよぎったが、それに気づいたのだろうディーンさんが言った。
「桜、安心して。この店見た目はこうだけどちゃんとした飯屋だよ。それに出てくる料理は本物だよ。」
そうは言われるもののやはり直ぐにそうですかとは言えないな。
私は店内をただ眺めることしかできなかった。
しばらくたつと、店員とみられる女性の一人が話しかけてきた。
「あら、ディーンさんいらっしゃい。久しぶりねー。何回かお店に食べに行こうと思っていたのに空いてなかったら心配してたのよ?あら、そちらの可愛らしい子は?」
「あぁ、久しぶり。ちょっと大事な仕事で店を空けてたんだ。この子は桜。うちの新しい従業員だよ。」
私はこの女性にペコリと頭を下げた。
するとこの女性は私をじっくりと全身をナメるように見たあと、
「わたしこの子すっごくタイプだわー。なにこの小動物みたいな儚げな感じー!もぅ超かわいいー!」
そう言うとその大きな胸を私の顔に押し付けるようにして抱き締めてきた。
く、くるしい。
私が困っている様子を見かねてディーンさんは女性にお水を注文した。
「いやー、ごめんねびっくりしただろう。彼女可愛い女の子が大好物なんだ。」
私は少し身震いがした。
私にそのような趣味はない。
「さぁ、それよりも何か注文しよう。ここの料理はどれも絶品だが中でも特に旨いのがハンバーグだよ。朝っぱらだけど僕はそれにする。桜は?」
ディーンさんが美味しいというのだから、間違いは無いのだろう。
私も同じものと言うのを聞くと、厨房に聞こえる声でディーンさんが注文した。
「すいませーん、ビーフハンバーグプレートを2つよろしく!」
そおいうとすぐに厨房から大きな了解という返事が聞こえてきた。
しばらく待つと厨房から美味しそうな肉の焼ける音と匂いがしてきた。
空腹を刺激される音と匂いだ。
「ここのハンバーグはね、シンプルながら今まで食べたハンバーグで未だにこれを越えるものには出会ってない。素晴らしいものだよ。」
ディーンさんのそんな言葉も私の空腹を更に刺激し、期待も高まっていく。
そしてついに完成したのであろう、厨房から先ほどの女性が鉄板に乗ったジュージューと良い音を鳴らすハンバーグを運んできた。
「さぁ、出来たわよー。桜ちゃんいっぱい食べてね。」
女性はそおいうと、私たちのテーブルに2つの鉄板を置いた。
肉の焼ける良い音と匂いだ。
「桜、冷めないうちに頂こうか。」
そおいうと、エプロンをしてナイフとフォークを手に取った。
私も真似をして、まずはナイフをハンバーグの上に添えた。
そして、ゆっくりと刃を下に降ろしていく。
するとハンバーグのジュッという良い音と共に中からは大量の肉汁が溢れてきた。
すごい、なんてジューシーなんだ。
次に一口大にハンバーグを切るといよいよ口に運ぶ。
口に入れた瞬間、肉の味とソースの味、そしてまるでスープのように口の中で溢れる肉汁によって口の中が満たされていく。
濃いめのデミグラスソースの味がしっかりとあるが、それに負けないくらい肉の味がちゃんとする。
シンプルながらとても美味しい。
ディーンさんがあそこまで言うのも頷けるな。
チラリとディーンさんを見ると、微笑みながら美味しいねと言った。
私は大きく頷くとそのまま食べる手を休めることなく完食した。
「どうだい、このパンチの効いた肉汁溢れるハンバーグは。僕が自信を持ってお勧めする味だよ。」
「ほ、ほんとうに美味しかったです。こんな美味しいハンバーグ、初めて食べました!」
そんな会話をしていると、段々と店内が混んできた。
ディーンさんはさっきの女性にお会計を渡すと、店を出ようかと言った。
私はディーンさんにお礼を言うと一緒に店を出た。
「あ、そういえば言ってなかったけどさっきの女性はあの店の店主なんだよ?あぁ見えても料理の腕は一流ってことだよ」
さらっと衝撃的なことを言われ、ただただ驚いた。
人は見かけにはよらないな。
でもあんな露出の服着ながら肉を焼いてたら危なくないのかな?
なんだか色々凄い人だ。
私の驚いた顔を見てディーンさんはクスリと笑うと、私の頭を撫でた。
「そんなに驚いたかい?僕からしたら君があそこまで料理が上手だってことも驚いたよ。今晩も君の料理が食べたいと思うんだけど、なにか頼めるかな?」
「はい、任せてください!因みに何が食べたいですか?」
「うん、夕飯は桜の作るハンバーグがいいなぁ」
ご注文はまさかのハンバーグだった。
しかも今、最高クラスのハンバーグを食べたあとなのに私に求めるハードルが高すぎないか?
私はひきつった顔で返事をした。