ソテー
ディーンさんはその後、具体的な私の帰る計画を提示してくれた。
「意気込んで話したものの、実はまだ終戦のゴタゴタで、すぐに帰るというのは難しいんだ。
僕の知り合いの軍関係者はもう皆引退してしまっていて中々融通も効きづらいのが現状だ。
現在確認の取れる最も近い日にちで一年後ってところになる。」
ディーンさんはとても申し訳なさそうにそう言った。
私は、そうして大体の時期が分かっただけでも充分嬉しいことを伝えた。
帰れるならすぐにでも帰りたいが、無理は言えない。
これだけの事をこの人からはしてもらっているのだから。
「それまでの間、もちろん桜はこの家で過ごしてもらって構わない。というかそうしてくれると僕も嬉しい。
近くの方が君を守りやすいしね」
ディーンさんはそう言って、改めて私を迎え入れてくれた。
私は彼に、感謝の言葉を伝えた後に言った。
「あの、その間せめて何か手伝うことはありませんか?お店を開けるなら料理の手伝いなんかも出来ると思います。」
それを聞いて、ディーンさんは少し考えるような仕草をとった後に
「じゃあ、無理のない範囲でお願いしようかな」と言った。
こうして、私とディーンさんの生活が始まった。
まだ不安は多いが、家族の元へ帰るまで精一杯生きよう。
そう心に誓った。
その日はお互い疲れていたので、眠ることにした。
二階にあがると私の部屋が既に用意されており、とても柔らかそうなベッドに机とクローゼットが置いてある。
私は本当に久しぶりに、人間らしい部屋を得ることが出来た。
しかし、いざ眠ろうとしてもそう簡単にはいかない。
私の心に刻まれている、昨日までの奴隷としての毎日は、簡単にこの幸せを受け入れてはくれないようだ。
私は夜になると訪れる、下卑た笑みの男たちをただ震えて待つ光景が頭に浮かんだ。
消えない辛い毎日。
小さな物音や、外の喧騒を聞くと、私はどうしても眠ることが出来なかった。
結局私はこの夜、眠ることが出来ず朝を迎え、睡魔によって半分気絶したように眠りについた。