仕込み
奴隷。 立場の極端に弱い者が強者によって、様々な用途で人権を無視して使われること。
もちろん、そんな行為は許されることでは無く、このアインツ王国もその例外ではない。
しかし、ある一部の権力者たちの中には秘密裏にそういったことがまだ行われているという。
まだ山には白く雪化粧が施され、春には遠いある日のこと。
ここアインツ王国では年に一度の建国記念となる日、国をあげての大規模な祭りが行われている。
年に一度の大イベントと言うこともあり、国内外から多くの人が、多種多様な目的で訪れる。
観光しにきた者、出店して一儲けしようと思う者、祭を楽しみにきた者、そして人の道からは外れた目的を持つ者も。
大規模なイベントでは各地域から数々の権力者が集まってくる。そこで裏では、そういった人間の中でも、秘密を守れる一部の人間の中で奴隷の取引が行われている。
王国ではそうした現状を把握していながらも、流れてくる莫大な金により口を閉ざしているといった状況だ。
華やかな街の祭の裏では決して光を浴びることのない暗い世界が広がっていた。
場所は変わり、奴隷の売買が行われているとある場所。普段はコンサートなんかにも使われているような所だ。
「続いては本日の大目玉でございます。遠い東の国の産まれで雌、歳はまだ14と幼いですが将来が楽しみなこの容姿、調教は済んでおり、反抗の心配もない気性にございます。No.3 さぁまずは5000ベルからで! 」
おそらくは私のことを言ってるのだろう。下卑た笑みを浮かべるこの男はそう言うと、客席らしき方へと問いかけた。
この男がいままで、私にしてきたことを思い出しただけでも吐き気がする。この男の笑みを見るだけで殺意が沸く。
「10000だ」「12000」「15000だ。」「えぇい20000だ!」「25000!!」・・・
自分がこうして値段を付けられているというのに、どこか他人事のようにただただその光景を見ることしか出来ない。
売られた先で自分がどんな扱いを受けるのか、大体の予想は着く。そこに幸せなど一ミリもない。
あぁどうしてこんなことになったのだろうか。
私にだってかつては幸せな日々があった。
片田舎ではあるが、特に不自由することはなく、寡黙な父と優しい母、大好きな兄との四人暮らし。
両親は小さな料理店を営んでおり、学校から家に帰ればいつも美味しそうな匂いが届いてくる。平凡だが無くして気付く、あれが幸せだったのだと。
8才の時に初まった国同士の勝手な戦争。
そんな訳の分からないもので私は家族と引き離された。
そしてその後すぐ、移住先で異国の人間であろうものに拐われた。
船に何ヵ月も何ヵ月も揺られたことだけは覚えている。
そしてそこから6年間。
汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い男たちから辱しめを受け、およそ人間と呼べる扱いをされずに、精神を無茶苦茶にされた。
そんな日々を思い出すのにももう慣れた。
もはや悲しみはない。
ただ、全てが憎い。それだけだ。
そうやって考えていると、どうやら競りは終わったらしい。
「他にいらっしゃいませんか?それでは、こ」
「30000だ。」
最後に手を挙げたのは無精髭に白髪混じりの髪。長い髪を後ろで括っている以外は中肉中背で普通の男だった。とても権力者には見えない。
「他にいらっしゃいませんか?それでは30000ベルでNo3はお買い上げです。ほら、ご主人様の所へ行ってこい。たっぷり可愛がってもらえよ」
この男には最後まで、まるで犬を相手にするように扱われた。
この男はそうして私を 買った 男の方へと私を促した。
新しいこの男はいったいどういう風に私を扱うのだろう。
歳からしても愛玩であることは間違いないだろうなぁ。
でないとこんな歳の女を買うわけがない。
そんな知りたくもない常識を知ってしまっていることにも嫌気がさしていたころ、ようやくこの新しい男が口を開いた。
「やぁ初めまして、お嬢さん。早速で悪いんだが走ってくれるかな。」
小さくニコリとその男は笑うと、私の手を引き勢いよく駆け出した。