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extra etc. fetus-  作者: サイタマメーカ
対象、米崎稲峰。72時間
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米崎稲峰と黒句轆轤 2

「――黒句轆轤」米崎から声が上がる。彼が自分の名を読んだことが、黒句には意外だったのか、『なに?』と返答をするまでに数秒の時間がかかった。「おまえは人間ではないだろう」

「そうだね」黒句は、自虐的な顔をして米崎の質問に答える。

「なら、何故人間の味方をする、おまえはこの国の民ではないだろう。俺が国や、社会を壊そうが、おまえ達には一切の関係はないはずだ。不利益を被らないし、暴力的な被害も受けない。非難も受ける道理はないだろう。少なくとも人間ではないおまえたちが、人間の肩を持つ理由はなんだ」

「俺は人間の味方をしようなんて思ったことはないよ。国の味方も同様だ」

 米崎は無表情なまま、感情を出さずに黒句を睨む。

「あくまで、仕事としてやっている――と、そういうことか?」

「それだけでもねえよ。まあ、争いが単純に嫌いで、その中でも殺害が一番嫌いで、そういった諍いやできごとを、単純に起こしたくないっていう気持ちだとか――かな」

「そうか」米崎は、何をいうこともなく、黒句の言葉に頷いた。「だが俺は、人間が嫌いだ」

「ああ、知ってる。全世界の人間を敵に回そうなんて考える人は、そういう思考を持っていた方がある意味では正常だと思う」

「……おまえは、俺のことを否定しないのだな」

「逆に評価したいくらいだ。全世界を敵側に回してまで、我を通す人ほど強大なものはない。そういう意味では、きみは誰よりも強い人間だ。きみに依存するのは楽だろうな。誰しもがきみに着いて行く理由ってのが、なんとなーく、分かる気がするよ」

 だからこそ、黒句轆轤は米崎稲峰を殺害の対象として認識したのだが。

 米崎は、真っ黒い瞳で、黒句のことを凝視している。

「スピノザだな。おまえの理解は」

 はい? と黒句は疑問符を浮かべる。単純に、聞いたとこともない言葉だったからだ。

「『人間の行動を、笑わず、嘆かず、呪詛もせず、ただ理解する』。人間に、そういう思想を唱えた人間がいたというだけだ。人間でないおまえなら、確かに可能なのかもしれないが」

 米崎は、光の一切が宿っていない瞳で、黒句の眼を睨む。

「黒句轆轤、おまえは殺人が嫌いだと言ったな。だが、俺が今まで認識した靄――黒衣の人物達の中で、おまえはこと殺人に至っては最高の実力を持っていると思惑するが、どうだ」

 黒句は、それには答えない。否、答えたくはない質問だ。

「おまえは一派や俺と交戦したとき、一度たりとも殺害を決行する気はなかっただろう。今の、この状況を除いて。逆に言えば、おまえは対象を殺害しなくてもことを収める技量をもっていることになる。赤岸とその一派を殺さずに鎮圧したのがいい例だ。『社会に害を成す人間の排除』。おまえの仕事内容であれば、殺害というのはこれ以上なく簡単な解決法だろう。それをしないのは、一概におまえの殺害の能力を示していることになる」

 米崎は、自分の耳の部分を指さして、黒句の着けているイヤフォンを指し示す。

「おまえが、俺の『声』による対抗策を付けているのがその証拠だ。俺の乗っていた車を切断した黒衣の人物。それがこの高速道路から逃走したならば、その装置はおまえにしか用意されていないことになる。おまえ達の目的は、あくまで俺――米崎稲峰の殺害だろう? つまりおまえがことに当たれば米崎稲峰は死亡したも同然だと判断した。他の奴らをすべて差し置いて、おまえだけが、今俺の前に立っている」

 黒句は、冷めた顔をして、米崎を見ていた。いくら米崎がその方面で黒句を評価しようと、仮にメンバーから黒句が評価されていることを指摘されようと、そんなものは黒句にとっては最悪の評価でしかない。

「殺人を嫌う、誰よりも殺人に秀でた殺人者。それが、おまえだろう」

 黒句は、米崎の分析に短い笑いを漏らすと、衣服の中から刃物を取り出して米崎に切っ先を向ける。それは、昨日伍波が撃退した米崎一派が所持していたものだった。

「人間が嫌いで、人間を崩壊させようとする誰よりも強い人間が、よく言うぜ」

 両者とも、それを否定することもなく、互いに携帯していた武器を取り出した。

 黒句は一本のジャックナイフを。

 米崎は密輸だと思われるセミオートの拳銃を。

「だがこの場において、まだおまえは本気ではないだろう。それにしては手際が悪い」

「いいや、本気だよ。ただ状況が万全じゃなく、最悪なだけだ」

 黒句轆轤にとって殺人をする上で最適な環境は、対象が己を認識していない状況で、すでに殺害の準備を終えていることである。これさえできればほぼ九割方、どのような人間でも殺害できる。例え成功しなくても、その際は殺害の予定時間が数秒変わるだけに過ぎない。

 対象が自分を認識し、かつ黒句のことを殺人者と認識し、かつ殺人の手段が白兵しかない、という状況が、人を殺す上ではこの上なく都合が悪いというのが黒句の価値判断だ。

「それを言うなら、きみだってそうだ。いや、きみの場合は、一切本気というものを感じないな。そもそも、本当にきみが自分の『声』を利用しようとするなら、自分は核シェルターにでも篭って、その中から外へ電子なりを介して『声』を用い、人間を操るとすれば、これは相当に理想的な攻め方ができる。対処をするのも追いつかないし、原因解明もたぶん、今回よりずっと遅くなったはずだ。きみはそういう意味では、常に全力を出していない」

 そしてその部分も、黒句轆轤と米崎稲峰の両者は共通する。

 つまるところ、彼らはそんなものに興味がない。最適化や最善を目指してはいない。

 殺人を突き詰めず、テロ行為を打算で行わない。彼らで言えば、それは当然のことだ。

 そんなものは、両者が目指すものとは全くの無関係だからだ。対極にあるといっても過言ではない。そんな隙のなさは両者にはただ無意味なだけで、嫌悪する対象ですらある。


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