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extra etc. fetus-  作者: サイタマメーカ
対象、米崎稲峰。72時間
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米崎稲峰と黒句轆轤 1

 その眼は、米崎の知る――少なくとも一度目の会合で得た知識程度ではあるが――黒句轆轤とは多分に食い違っていた。ふざけた表情などない。ただ対象を見据えて殺害を目標とする殺人者の顔が、そこにあった。米崎稲峰は、その様子を表情もなく見つめる。




「各員、米崎一派」




米崎が『声』を発した際、すでにそこに筒状の何かが投げこまれたことを米崎は確認する。それからコンマ数秒で、その筒は甲高い音を響かせて破裂した。

 透明な、光を透過して白色に見える霧が、米崎と後ろの車を包み込む。

 ――睡眠薬?

 そう連想する米崎だが、違うことをすぐに実感する。霧に当てられた顔や眼球、手足が痛覚を持って痛み出したからだ。皮膚上に当たった霧が人体に悪影響を与えている。

 それが睡眠薬ではなく、有毒ガスであることを遅れて認識する。対人目的に作られた化学兵兵器。多数の人間を相手にする上では、これ以上なく適応する類の気体兵器。

 黒句は防護マスクと手袋を着け、米崎の方向に走って行く。これも馬鹿げた方法だ。黒句が万全の方法で向かえば、米崎の位置を毒ガスを散布した時点で計算し、米崎を仕留める用意を完成させているはずだった。万に一つも米崎がこの毒で死亡することなどに期待している訳ではないが、しかし、これで口を開くことはできない。米崎の『声』は潰した。

 そう思っていた黒句だったが、白い毒ガスの中からそれは響いてきた。




「各人、黒衣を着ている目の前の男を轢き殺せ」




 途端、黒句の後ろからエンジン音が無数に響いてくることが分かる。車内では気体が侵入するスピードが遅いのだ。特に走行する車内に対しては気体などまったくの無力だと言っていい。

「…………っ」霧の中へ走ってくる二台の車を辛うじて躱す。しかし、それとほぼ同時に反対側からもそれぞれ三台の車が黒句を轢き殺そうと迫ってくる。「――まず、一台から」

仕方なく、黒句は手持ちの武装だけで反撃を行うことにした。

ガスの中を突っ切ってくる車を確認し、その運転席に手に持っている刃物を全力で投擲する。刃物はフロントガラスを破壊し、そのまま運転手の右肩に突き刺さった。黒句はそれをマスク越しの肉眼で確認すると、車の軌道から身を外し、残りの四台の位置と米崎の位置を確認する。

 ――手持ちの武器で車の機動を破壊するのは無理。……なら。

 昨日行ったことを、再度実践することにした。黒衣中に納まっていた缶のピンを抜く。

 スタングレネード。日本名で閃光音響手榴弾。

 四台の車が黒句に迫ってくるのを風で流されつつある有毒ガスの中で捉えながら、黒句はそれを地面に落下させる。さすがに今回は、目と耳を防護することを忘れなかった。

 音と視覚を防護するために、その二つを一時的に封じた黒句が、自分に迫ってくる車の位置を把握する方法は、実のところ目を閉じる前に見た距離からの憶測でしか不可能だった。

 地面の振動。

 頭の中での映像。

 黒い四つの車体を、頭の中で仮想的な映像として捉える。

 そしてそれを、実際に黒句は現実(リアル)でも避けた。あえて車体の一つに走り、車体を踏み台にし

て飛び上がることで、黒句は上空に逃れ、黒句を目標として発信した四台の車は、同じ目的をもったそれぞれの車に正面から衝突する結果となった。エンジン部分を大破させ、四台の車が一斉に走行を停止する。飛びあがった黒句は、その様子を地面に足が着いてから確認した。

 そこで、黒句は目の前に米崎がいることに気が付く。もうほとんどガスが空気にのって霧散したその場に、米崎は口に布のようなものを当てて立っていた。




「動くな」




黒句が行動をする前に、米崎が声を発する。これによって、両者の決戦は幕引きを迎える。




「確かに容赦のないものだ。だが恐れることはないな。おまえが殺人者としてどれだけ優れていようと、一人が出来ることなどたかが知れている」




 複数の音響が混ざりあった音。受信者を意のままに操ることが出来る、その声帯。半径百五十メートル以内であればどれだけ些細な音響でも作用し、耳栓や防音などでは防御すらままならない。走行中の車内にいる人間にも正確に伝わるほどの特異な声色を持ってして、米崎稲峰は黒句轆轤という殺人者を鎮圧した。




「では、お前らの仲間に伝えてもらおうか。『米崎稲峰は殺害した』と。顔を潰した死体は用意しよう。それで数時間は時間が稼げるはずだ。できれば、その後で自害してくれるといい」




 黒句は動きを止め、米崎を凝視している。

 そうして、黒衣の中から新しい刃物を取り出し、米崎の首に向けて突き出した。

「…………っ!」米崎は、最速で突き出された刃物を躱して見せる。しかしその脳内には、黒句に対する疑問が散漫する。「――なぜ、効かない」

 そこで、米崎は黒句の耳にイヤフォンのようなものが付けられていることに気が付いた。コードのないタイプの、音響を電波に乗せて受信させる、ワイヤレスイヤフォン。それが、黒句の両耳につけられている。

「……なるほど。原因は、それか」

 その発言を聞いた時、黒句は米崎に対する対抗策が失敗に終わったと認識する。

 葉月三鳥子が用意した米崎稲峰への対抗策は、実のところ米崎稲峰の『声』の作用を抑えることだった。米崎稲峰の声帯、その特殊な音響を分析し、その作用の方法を解明し、反対にその音響をジャミングする装置を作るのが、彼女が与えられた二十時間という時間内では精一杯だった。故に、米崎稲峰への黒句の対抗策は、『米崎が声を作用させたと認識し、ほんの一瞬気を緩めた瞬間を叩く』と言ったことでしかなかった。

 対抗策は米崎に露見した。つまり、ここから先は何の策もなくなったことになる。

「でも、まあ、イーブンかな」

 しかし、それは米崎とて同じことだ。人の通らない高速道路。この状態で、米崎稲峰の能力と言うのは本当に意味のないものに成り下がっている。目の前にいる人物は、米崎の能力を受け付けない人物。この時点で、両者の違いは単純な武力面のみになった。


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