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extra etc. fetus-  作者: サイタマメーカ
対象、米崎稲峰。72時間
46/60

きみを――――

 そこで、両者はようやく訪れた数台の車のエンジン音を耳に入れる。運転手の眠気を誘う構造を避けるために曲がり角などを多く設けた高速道路の先に、数台の黒い車がこちらに走ってくるのが見える。向こうも黒句達を視野にいれたのか、若干車のスピードが変わった。

「何台目だ?」金崎が黒句に訊く。それは、米崎稲峰が乗っている車、という意味だ。

「前から四台目です。――今、三台目に変わりましたね。米崎を先に逃がすつもりだ」

 黒い車の群はより速度を上げて、金崎と黒句に走ってくる。高速で回転するタイヤとエンジン音を響かせて、彼らは二人を轢き殺す勢いでアクセルを踏んでいる。

 金崎の肩から大斧がアスファルトに落ちる。巨大な刃はコンクリートの地面を粉砕してめり込んだ。そうして金崎は、自分の肩を三回ほど回すと、その斧を片手で持ち上げた。

 重量百㎏。黒句の見立てではそれくらいの重量のある物を、金崎は難なく持ち上げ、米崎が乗っていると思わしき車の一点を見据える。

 アクセルを踏んで突進してきた一台目と二台目の車を、体を捻るにとどめて躱すと、斧を持った腕を横に振りかぶる。ぶおん、と巨大な金属が大気を扇ぐ音が、黒句にも聞こえた。

 迫りくる車。身を回転させ、慣性と遠心力で斧を振る金崎。

 黒い自動車は巨大な刃を躱そうとしたが、努力虚しく、そのフロントガラスに斧の巨大な刃が激突する。

 金崎の腕にかかる反動は尋常なものではないはずだ。それを、まったく感じさせないような動作で、金崎修吾は走りくる車を横なぎに両断した。

 人を乗せた巨大な機械の塊が、血飛沫のような物を上げながら高速道路の上をスリップする。高速で回転する車体は、黒句と金崎から五十メートルほどの距離までタイヤの跡をアスファルトに着けたあと、おかしな擬音を響かせながら、ようやく停止した。

「――生きてるな」何者かの血液が付着した自分の斧を見ながら、金崎は言う。「ぎりぎりで躱しやがった。まったく、あいつ本当に人間か?」

 あなたには言われたくないだろうなぁと思いつつ、黒句は後ろに下がった三台の自動車と、黒句らを通り過ぎずに目の前に急停車した三台の車を、それぞれ見比べる。

 中から一派の人間が出てくる様子はない。ただ車内の中から金崎と黒句を凝視している。

「じゃ、おれの仕事はここまでだから」そこで、黒句は高速道路から飛び降りようとしている先輩を見た。地上三十メートルの高速道路の上からである。「後はおまえに任せる。おれは米崎稲峰の対抗策とやらを持ってないからな。ここから先は手付無感だ」

「変わってもいいですよ」黒句は、一歩踏み出せば高速道路から落下する金崎にそう言う。「実際、金崎先輩のほうが適役だと思いますし。考え直しません?」

「それこそ、だろ。おれじゃ成り立たないんだよ。一がおまえを指名したのも、葉月がおまえに対抗策を渡したのも英断だ。おまえ意外に誰がやるってんだよ。おれたちの目的はあくまで、米崎稲峰の殺害にすぎない。おれたちの中で最も殺人に秀でた奴が請け負うのは当然だ」

 そう言って、金崎は高速道路の上から飛び降りた。巨大な斧を肩に乗せながら、その巨大なシルエットが黒句の前から消失する。それを視野に入れた後、高速道路の上から音がした。

 見れば、金崎が破壊した自動車、その中から、既に破損した車の扉を素手で外して、k道路の上に降りて来る米崎稲峰の姿が、そこにあった。

「――は、本当によくやる」まあ、俺が言えたことじゃないけど、と黒句は目を細める。「会うのはこれで二回目だね、米崎稲峰くん」

 米崎は、道路上に立つその人物を視界に入れ、ああ、と声を上げた。

「黒句、轆轤だったか」米崎の衣服には血液が付着しているように見える。もっともそれは、米崎自身のものでっはなく、乗り合わせていた人物の物なのだろうが。「ずいぶん情け容赦なくやったものだ。確か、殺人は嫌いなんじゃなかったのか」

「俺は、ね。ついでに、俺が嫌いなのは殺人じゃなくて、殺害そのものだよ」

「そんなものでよく殺人者が務まる」

「いやまったく、言い返す言葉もない」黒句轆轤は乾いたように、笑う。「しかしまあ、これはきみで言う、『人間嫌い』と同じようなもんだよ。理屈じゃなく、言語化は難しい」

「そんな男が、俺の殺害に当たったと? 殺したくもない人間が」

「いいや」そこで、米崎は黒句の様子が変わっていることに気付く。今までのふざけた態度ではなく、刺すような目で米崎稲峰を凝視している。「殺したくないのは、確かにそうだ。人にはその人の人生ってもんがあって、それがどんなものであれ、簡単に奪うことは許されない。けどね、それもケースバイケースだよ。今まで俺がきみを殺害したくなかった一番の理由はね、きみが、テロ行為で人に危害を加えはしたにしろ、今まで意図した殺人を行わなかったからだ。きみは、あくまで人類全体の破滅を望みながら、しかし積極的に人を殺傷するような行動はとらなかった。器物破損も、電波ジャックもそうだ。きみは、無差別な殺戮は望んでいない」

 米崎稲峰は答えない。ただ黙って、黒句轆轤を凝視している。

「正直に言えば、人を殺さずに、社会だけを壊すのであれば勝手にやればいい。だからまあ、言っちまえば、俺はきみに期待していた。本来なら九日は説得に使う時間だけど、それも不要かと思えるほどに。けど、さっき伍波ちゃんの話を聞いて、少し事情が変わった」

 きみ、萩原円居に自殺を促したらしいね、と黒句は言う。

「きみは、子供を切り捨てて殺そうとした。ここに来てきみがそんなことをしようとしたということはこの先少なからず殺人も犯すだろう。悪いけど、それは少し、見逃せるもんじゃない」

「だから、俺の殺害を決意したか? 偽善的な自己判断だな」

 ふはは、と黒句は乾いたように笑って、黒い外套の中から一本の刃物を取り出した。

 それをくるりと回転させ、逆手に持ち替えて、米崎を見据える。

「あー、米崎くん。今から俺、すっごい馬鹿なことを言うから、笑ってくれていいぜ」

 そもそも、黒句が米崎の前に立ち、米崎を殺害するという状況の時点で、黒句にとってそれは最悪の状況を示している。殺人に必要な環境は、相手が自分を認識していない状況で、かつ、己がそこにいないことが絶対条件だ。手口が知られるなどどうでもいいし、明らかな他殺と素人目に分かる死体を作り上げても問題ない。ただ、殺す対象の目の前にいるというのは、コンディションとしてはこれ以上なく最悪だ。




 だから、黒句は、そんな馬鹿なことを――




 そんな意味もない発言を、矛盾した発言を口にした。




「きみを――」


 意思表示。

     目的確認。

         目標提示。

     対象把握。

 方法検索。

     思考放棄。

         衝動関与。

     経験分析。

 武装確認。

     状況考察。

         人数計算。

     時刻設定。

 行動選択。

     意識切除。

         感情削除。

     自我圧縮。

 我心破壊。

     改案提示。  

         人物目視。

 

    ――殺害指定――対象――米崎稲峰。













                「――殺す」


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