その後
早朝、黒句轆轤と伍波百花はメンバー、葉月三鳥子の自室にいた。雑貨店などで貰えるようなくしゃくしゃになった紙袋を、葉月は黒句に手渡す。受け取った黒句は、微妙な顔をした。
「なにこれ」当然、黒句の口から出た言葉はそんなものだった。
「米崎稲峰の対抗策」対して、欠伸をしながら葉月が答えたのはそんな言葉だった。よくみれば、目の下に隈のようなものが出来ている。「一応、作ってはみた。一人分だけどね」
「なんか、言い方が手探り感満点なんだけど」
「満足なテストもしてないしね。調整としては、あと一日は欲しかったところだけど、それじゃたぶん、もう間に合わないだろうから」
黒句は、組袋の中の物を覗く。伍波もそれを黒句の傍で覗き込んだ。
「あの、さ。昨日も言ってたけど、どうして俺なの? 適役なら他にいくらでもいると思うんだけど。金崎先輩とか特に」
「リーダー直々のご指名なのよん。なんだか知らねえけど、『渡すなら黒句くんじゃなきゃ駄目』ってさ。信用されてますねえ、黒句先輩」
侮辱にしか感じない黒句だが、そこで、部屋の中に数あるモニターに、一つの人物を発見する。部屋に取り付けられた薄型のモニター、更に一つのモニターに九分割された映像の一つ。
「ねえ葉月ちゃん、この映像ってリアルタイムなやつ?」
「そうっすよ。なにか?」
黒句は、モニターの一点に指をさす。そこには、昨日会った筈の少女が映り込んでいた。
「この子、円居ちゃんじゃない?」言われて、伍波が反応する。黒句の指が示す方のモニターに目を合わせる。確かに、そこには素朴ながらも十分に存在感を放っている少女が一人、スクランブルな交差点に立ち尽くしていた。その様子を黒句は視野に入れて、口を開く。「迷ってるなら、行ってあげて、紫蘭ちゃん」
伍波は、前の名前を呼ばれたことに、若干の反応を見せる。
「ここからあの場所まで、そんなに時間はかからないはずだ。葉月ちゃんが趣味で持ってるバイク貸すから、それで行って来な」
途端、慌てたように席から立ち上がる葉月だが、黒句は葉月の口をさし抑える。
「黒句さんは?」伍波が訊く。黒句は片手で持っていた紙袋を晒して見せる。
「別に。どうも変わらない。金崎先輩及び他のメンバーとお仕事に行くよ。米崎稲峰くんと決着を付けなきゃならないみたいだし。きみもきみで、自分のことに決着をつけるべきだ」
黒句は、いつ葉月から抜き取ったのか、バイクのキーらしき物を伍波に投げる。伍波は、その銀のストラップが付いた鍵を、両手で受け止めた。
「バイクはホテルの地下にある。ストラップがバイクに反応して見つけられるようになってるから。行って。んで、振り向かないで」
伍波百花は、黒句に深く頭を下げてから、部屋を後にした。
そこには、思いっきり不機嫌な顔をした葉月と、それを無視している黒句が残された。




