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extra etc. fetus-  作者: サイタマメーカ
対象、米崎稲峰。48時間
37/60

友人の内情

「まだ、そんなことをしてるのか」

 電子で構成された音声が響く。それは今、彼女の右耳に当てられている電子音声によるもので、彼女がいるコーヒーショップの中にそれを聞くものはない。

「意味もない行動だな。くだらない。我が子ながら呆れる。自己判断もできなくなったのか」

「…………」彼女、萩原円居は答えない。ただ黙って、通話先の父親の話を聞いている。

「おまえが望んだから、芸能活動も好きにやらせた。高校にも行かせた。だが、事もあろうにテロリストの集団に入ると言うのはどういう理由だ。法律の勉強はしてこなかったのか? 最近の学校教育というのは、子供にそんなことも教えないのか。それとも、おまえが馬鹿なのか」

「……知らないよ」そこでようやく、円居は口を開いた。

「それは、ろくに勉学をやってこなかった人間が、自分の無能さを言い分けるために使うつまらない意見だ。そんなものは通用しない。おまえはもう少年法も適用されない年齢だ。捕まれば、懲役は免れない。入った高校も、築きあげた芸能も無駄になる。世間とはそういうものだ」

「…………」

「懸命なら、芸能もテロリストの仲間も捨てるべきだ。いなくなった友人のことも見切りをつけるといい。なに、交友関係などというものは相互関係によって結ぶものではなく、利害関係を踏まえた上で構築するものだ。他者に軽薄な人間でない者は、一人の人間に固執などしない」

 そこで、通話は切れた。というより円居本人が一方的に切った。

これ以上父親と話しても始まらない。彼は妻を失って以来、子供にどのように接したらいいのかが分からないのだ。だからああいう、基礎教育をそのまま無感情に述べるような口調になる。

 意味もない、くだらない。

「それくらい、分かるよ」

 コーヒーショップにかけられた時計に目を移す。時刻は午後の二時半を指している。約束の時間までは、約三十分ほどある。

「ん? あれ?」そこに、円居が訊きたくはない声が紛れ込んだ。声のした方に向くと、そこには、円居の席の前に立っている、黒句轆轤の姿が見えた。伍波が纏っていたような黒衣を見に纏い、円居の方に目を向けていた。なぜか顔色が悪い。腰も若干曲がっていて、ほんの少しだが、足取りもふらふらとしているように、円居には見えた。「早いね。もう待ってるんだ」

「――あ」名前を口に出そうとするが、目の前の男の名前が出てこない。「あなた――」

「あー、そうか。名前を言ってなかったね。俺は黒句轆轤って言う。『く』と『ろ』を交互に三回繰り返せば言える名前だから、覚えやすいでしょ?」

「……紫蘭は?」

「今来るよ。俺だけ先に来たんだ。彼女の両親とは彼女がいないところで話をしたかったからね。――ま、でも」黒句は辺りを見回す。そこに座っているのは円居のみで、他の席にそれらしき人物は見当たらなかった。「ひょっとして、交渉失敗した?」

「彼女の両親は、残念ながら来ません。紫蘭に会えると言っても、取り合ってもらえなかった」

「ふーん?」黒句は、そこで何かを悟ったように頷き、それから円居の体面の席に腰を下ろした。「萩原円居さん。あなたに折り入って、頼みたいことがある」

 黒句は、いつになく真剣な表情で、円居を見る。大して円居は、それが何か不気味な物に思えたのか、黒句から目を離した。が、その後で、おずおずと黒句に目を合わせる。

「頼みって?」

「伍波百花――立花紫蘭をきみの方へ戻してほしい」

「は?」円居は、黒句という男口から出て来た言葉に唖然とする。「どういう、ことですか?」

「他意はないな。そのままの意味だよ」そのままの意味、と言われても、円居は釈然としない。そもそも、この男が紫蘭が失踪した原因ではないのかと、円居は思っているのだ。「彼女は今、俺たちの仕事のメンバーの一員だ。そこから抜けて元の生活に戻るよう、きみから説得して欲しい。別にどんな手を使っても構わない。もう、時間内じゃきみくらいしか可能性が見いだせないからさ」

 萩原円居は、黒句轆轤を凝視する。

「あなたが、紫蘭の両親に会いに行けばいいじゃないですか」

「仕事中なんでね。簡単に一日とか潰せないんだよ。ご両親のところに行って事情を説明して、それで理解してもらって、メンバーから抜けてもらって紫蘭を連れて帰ってもらうのに物凄いプロセスがいるでしょ。俺には、というより、紫蘭自身にもそんな時間はないんだよ」

 女々しいけど、きみだけが頼りなんだよね、と黒句は言う。

 そんな黒句のことを、円居は数秒睨みつけた後に吐き捨てる。

「勝手だよ、おまえ」それは、女性や子供といった概念をすべてかなぐり捨てて発したような、声だった。「大人ぶってさ。勝手に紫蘭を連れて行ったくせに、今度は戻してほしい? 調子が良過ぎるにもほどがあんだろ。ふざけんのもいい加減にしろよ」

「承知してるよ」対して、黒句が発したのはそんな言葉だった。緊張も脅迫も怒りもなく、ただ淡々と、黒句轆轤は円居の指摘を受け止めた。「あの子を勝手にこっちに引き入れたのは俺だ。だから、これはその落とし前、かな。いい加減シンドイとも言ってられないんでね。きみから見れば、まあ、『よくやる』って感じなんだろうけど、俺としては真剣だ」


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