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extra etc. fetus-  作者: サイタマメーカ
対象、米崎稲峰。48時間
35/60

彼らの正体

「――確か、人間嫌いとか言ってたよ、米崎くん」

 ベッドに横になった黒句が、葉月に言う。葉月自身はそれには微妙な顔をした。

「そーゆーんじゃないんだって。あー、でもどうかな。だから、なのかな。実際」

 一人で納得しながら、葉月は他の三人を置き去りにする。そんな彼女に対して、次に口を開いたのは壁に寄りかかり、話の行く先を見据えていた伍波だった。

「あの、じゃあ、結論だけ教えてください」

「アンサーを率直に求めるのは現代っ子だね。でもまあ、いいや。教えたげる」

 いい加減にそうしないとこの部屋にいるメンバーには伝わらないと思い、彼女はそういった判断に踏み切った。実際にはもっと理論性を重視した説明をしたかったのだが。

 音響、と彼女は言う。

「言ってしまえば、米崎稲峰は、自分の声を相手の思想心理に刻み付けて、そのまま欲求に変える力みたいのを持ってるってこと。実際に会った黒句さんと伍波ちゃんは分かるんじゃない? 彼の発言。つまり米崎稲峰の声っていうのは、いくつもの音が複数絡み合って形成されている。その複合音声が人間の聴覚を通じて、特殊な命令形となって脳に受信されるわけ。サブミナルってあるじゃん? あれに近いかな」

 それは、伍波も知っている。とある映画に数十もの食品のフレーズを入れたところ、観客が映画館を出た際、何人もの人間がその商品を求めたという事例だ。

「すっごく簡単に言っちゃうと、彼の発した言葉に誰も逆らえないってこと。少なくとも耳に入れた時点で、その命令は個人の脳に浸透している。今回テレビにあの音声を流したのも、一週間前に東京中の人間が一斉に暴動を起こしたのも、これが原因。オリジナルではないけれど、そっちの動画もここ数日で収集できた。知り合いに記録主義者がいてね。その子が持ってた」

 最初に放映された映像、つまり東京二十四区内に流されたものは、時間にして約数分。それだけの時間を、米崎稲峰の『声』が入った映像が流された。

「その時の命令は、『壊せ』だった。不思議なことに、その時は誰も人を襲わなかったんだけど、それにも理由があってね。実は、その時米崎の声が入れられたのは、とある器物破損の報道だったわけ。これで、大方分かったんじゃない?」

「何がだよ。全然分かんないけど」金崎が抗議の声を上げる。葉月はそれに非常にうんざりした目を向ける。

「米崎稲峰の『声』は、受信者を強制的に従わせる力を持ってる。でも、一度の入力の命令とは違い、その時の人たちは、声とはまったく関係のない『報道』っていう入力を判断基準にした。普通に考えれば、米崎の『壊せ』の命令だけで、人や物を破壊する行動に出るはず。これはつまりさ、米崎稲峰の『声』っていうのは、あくまでそれを欲求に変えるだけで、本質的には受け手に左右される能力だってことだよ。互換だね、言っちまえば」

 器物破損といったフレーズを耳にしたことにより、その後にきた米崎の命令『壊せ』を、器物破損のことだと認識した。故に破壊の対象にしたのは器物のみで、人を壊すことがなかった。

「なんか、都合が良いね。もしかして計算かな」黒句が言う。

「だと思う。元々人を傷つける必要はなかったんだし。でも、もしその行動が打算だったとしたら、それはたぶん米崎稲峰の意思じゃない。誰か別の人間が勝手にやったことだと思う」

 そこで、葉月の周りにいた人物達は目を丸くする。葉月のその発言は、彼らには意外だったようだ。ついでに、その部屋にいるのは彼らだけではなかった。今頃テレビ局から引き上げ、ホテルに戻ってきたメンバーも葉月の部屋に徐々に入って来ている。

「あーあーあーっ、そんなに一気に来んなよ。定員は四名までだよ。他は廊下で聞け」

 金崎と伍波の間にある扉から、複数のメンバーが出て行く。

「話を戻したいんだけど、つまり、どういうこと?」

「さっき伍波百花ちゃんに渡した写真」葉月は、テーブルにあった写真をつまみ上げて、金崎と伍波、そして部屋の外にいるメンバーに見せていく。「この子が米崎稲峰のサポートをしてるんじゃないかって仮説。どうも米崎君一人じゃ、それは無理そうだからね。報道する機関を利用して米崎稲峰の『声』を拡散させたのは、彼女だと思う」

「どうして、その人なんですか? 米崎一派なら、他にもいっぱい――」伍波が葉月に発言する。ベスト、と葉月は面白そうに言って、伍波に指を向ける。

「そう、彼女自身はあくまでただの大学生。経済学部、二十歳の古木麦奈ちゃんでしかない。けどね、ネット環境に疎い君達は知らないだろうけど、彼女、あたし達の間じゃあちょっとした有名人なんだよ。ま、名前はあくまで彼女自身じゃないんだけど」

 今度こそ、彼女の話を聞いていた全員が眼を丸くした。葉月はそんなことを気にも留めていない様子で、古木麦奈という少女の写真に指を向ける。

「前にさ、一時期だけど、政府首脳のコンピューター関連が破壊されて、ほんのちょっぴりだけどそのデータが外部に流出したでしょ。で、その時に政府の人間がいい訳みたいな会見を開いたでしょ。その時の犯人の一人だと思うんだよね、この子」


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