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extra etc. fetus-  作者: サイタマメーカ
対象、米崎稲峰。48時間
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無言通話

「く、ろく、さん」米崎が局から逃走してから、約一時間後に伍波百花はその場で復帰した。フードと予め態勢を取っていたことにより、黒句が投擲した兵器、閃光音響手榴弾の閃光の部分は防げたものの、爆音による聴覚の麻痺が起きている。そんな伍波が見たものは、閃光への防御もできず、爆音によって聴覚が完全に使えなくなり、それでも米崎の出て行った方向へ歩を進めようとしている、黒句の姿だった。だがその姿は立ち上がるのがやっとであり、それ以上の行動は不可能なように見えた。「くろく、さん」

 どうしてそこまで、必死になれるのか。黒句本人は殺害が嫌いだと言っていたのに。

 その理由は、伍波には単純な気がした。要は、「殺したくないから逃がしたくない」のだと。

 そんな黒句を、伍波は冷静に呆れ、そしてそれ以上に強い憧憬の感情に支配された。

 そんな彼だから、伍波は彼と同じ場所に行きたいと思ったのだから。

 しかし、伍波がするべきことは、黒句に対して救助行為をすることではない。

 伍波は、一日前に黒句に教わった『無言通話』の所作をし、メンバーに近況を報告する。

『15。金崎修吾さん。すいません、米崎稲峰に逃げられました。黒句さんと私は行動できない状況にあります。たぶん、近いうちに対象が局から出てくるかと思うので、お願いします』

『ああ、新入りか、お前』伍波は子供ながらに怒鳴られる覚悟で通話をしたのだが、相手の金崎からは、比較的温厚な声が返って来た。『そんなことより、お前と黒句はどうなんだ』

『対象を鎮圧するために、黒句さんが閃光音響手榴弾を使ったんです。それで――』

『ははあ、黒句らしいな』そこで、金崎は大方の状況を読み取ったように笑った。『分かった。お前一人じゃ黒句を運ぶのは辛いだろ。迎えに行くからそれまでそこで待ってな。黒句にも伝えておけよ。意識がはっきりしてるならな』

『あの、対象は?』金崎に訊く。ああ、と金崎は思い出したように言った。

『逃げたよ。俺らも逃がした。正直嘗めてたな。あんなことが出来る奴だとは思わなかった。確かにあれなら、テロリストとしても、世界に害を与える人間としても一級品だ』

 伍波には、金崎の言っていることがよく分からなかった。何が起こっているのか、さっぱり認識できない。たった一時間の間に、遠い昔に置き去りにされた気分になる。

『米崎稲峰は、自分を囮にしたんだよ』金崎は、そう言った。『局に入り、俺達に意識を向けさせた上で、別の場所で事を起こしやがった。たぶん、俺達が米崎だけを目的にしていることに気付いていたんだな。だから自分一人で局に入った。俺達の注意を集める為にな。捕らえていたと思っていた俺達は、逆にあいつに捕まってたわけだ。ノットハンティング』

『あの、つまり?』

『米崎が局から逃走する前、テレビとラジオ、一部の報道機関からある声明が上がったんだよ』

 それは紛れもなく、米崎稲峰自身の声で、それが複数の報道機関から全国へ発信された。

『音声データを公共の電波に流しやがったんだ。つまりあいつの目的は、俺達の注意を惹きつけた上で、他の報道機関から自分の声明を送ることだった。不思議なことにまったくの一斉にあいつの声明がテレビに流れたぜ。しかも、侵入された局と局員は、それを流した米崎一派を、すんなり局の中に入れて報道させたんだと』

「えっ」思わず口から声が漏れる。なんだ、それは。まるで人の意思を操っているかのようだ。

『内容は、約一時間に渡って「米崎稲峰、及びに米崎一派の行動に干渉するな」とかいう声が、繰り返し繰り返し、六十分ぶっ続けで垂れ流しになった。そしてその放送に対して、局員も警察も、政治も軍事も何も動かなかった。ただ黙って、ぽけっと、その放送を見てたってわけだ』

 伍波は、言葉が出なかった。それは日本という国が、米崎稲峰という男に対して思うがままをさせたということだ。それでは本当に、米崎の言ったことが現実になっている。

『――それは、どうして?』

『それについては葉月のやつが映像と音声を分解して分析してる。んで、米崎稲峰の正体を丸裸にするんだと。張り切ってたぜ。黒句を連れたら昨日のホテルに行って問い詰めてやるさ』

 それで、と金崎は言う。

『伍波百花、だっけか? お前、その場でまだ動けるなら、頼みたいことがあるんだが』

『頼みごと?』

『天才なんだろ、お前。黒句を無事に助ける為に、一つ協力してくれ』


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