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extra etc. fetus-  作者: サイタマメーカ
対象、米崎稲峰。48時間
30/60

結論の果てに

 米崎は、そんな言葉を口にした。黒句としては、呆れる以外の行動がとれなかった訳だが。

「おれは人間が嫌いだ。世界の何よりも、人間という種が大嫌いだ。昔から、今も変わらず継続して、おれは人間という生命体がこれ以上なく嫌いなんだよ。人間が敗北や卑怯を嫌うように、汚濁や汚物を嫌忌するのと同様に、害虫や稚拙を嫌悪するのと同じに、異端や外敵を嫌疑を通り超して攻撃に移るのと同様の理由で、おれは、人間という存在が大嫌いだ」

「…………」国際テロリスト、米崎稲峰。黒句は彼に会うまで、そういった人物はきっとなんらかのつまんない大義だとか理由だとかを、まあ懇切丁寧にぺらぺら喋ってくれるものだとばかり思っていた。

 黒句自身も、何度かテロリストを相手にしたことがあるためだ。そもそもテロリズムというのは、弱者のために与えられた闘争行為を言うのであって、そこに個人の意思が介在するのは当然のことと言える。

 しかし、この男は違う。米崎稲峰という青年にあるのは善意でも悪意でもなく、ただ一つの嫌悪感と、目的だけだ。報道を見た時、特に彼が流したと言う動画を見たあたりで、その行動理念には疑問を感じてはいた黒句だが、これようやく明確になった。

「本当に、よくやる」怪物だな、と黒句は思った。この米崎という青年は、人間の中で偶発的に誕生した怪物なのだと、この時認識した。「衝動そのものが思考と行動に干渉するってのは、俺が会ったテロリストの中では、きみが初めてかな」

「否定意見を吐かないのだな」

「うんまあ、ただ言ったところで、どうにも伝わる気がしないんだよね。きみには」

「そうか」米崎は、そこで黒句に言う。「では、おれから聞こう。何故人間の味方をする。お前らは少なくとも、どこかの国の人民ではないだろう。国や、人の味方をする理由はなんだ。対象を殺害してまで、お前らが守りたいものでもあるのか」

「いーや、他の人はどうか知らないけど、少なくとも、俺にそんなもんはない。きみと同じだ。殺人対象に対しては、善意も悪意もない。恨みもなければ怒りもない。そういうのはいちいち考えるのは、シンドイ。俺が殺すのは、一概に言えば、『仕事だから』かな」

 は、とそこで両者は、乾いた笑いを漏らす。

「結局どちらも」

「ロクなもんじゃねえわな」

 そこにいるのは殺人者とテロリスト。最初から、真っ当な要素など皆無だった。

「しかしだ、米崎くん。俺はきみと同じでね。殺人っていう行為が大嫌いだ。だから、これから俺が言うことに、きみが同意してくれるなら、俺はきみを殺さなくて済むかもしれない」

「家納割率を殺した殺人者がよく言う。聞くだけ無駄だ」米崎は、黒句の提案を真っ向から跳ね返した。「そして、そんな言葉を鵜呑みにして、命欲しさに行為をやめるくらいなら、最初から行動など起こさないだろう。俺の目的は、目的を達することただ一つだ」

 ああ、これはシンドイな、と黒句は思う。この男は、命と目的を天秤にかけて、目的の重量が命の重量を軽く凌駕している人間だ。どう説得したものか。

「ああ、分かったぞ」そこで、黒句は米崎に対して鎌をかけてみることにした。大方頭の中で出来上がりつつある仮説を元に。「きみがどういう特性を持っていて、なぜ東京二十四区を倒壊し、マスコミに存在を早々に認知させられたのか。その秘密がさ」

 その時、壁から不可思議な音がした。米崎は反射的にそちらに目を向ける。黒句も、その音が何であるか、実際に体験した米崎よりも早くに気が付いた。

 故に、壁から銃弾が飛び出すのと、黒句が当に動くようになった四肢を使い、床にある灰灰皿を取りながら米崎に駆けたのはほぼ同時だった。

米崎は真横から飛来する銃弾を、身を引くことで躱して見せる。が、その先に見えたものは、室内の机の上を蹴り、灰皿を振り上げながら高速で接近している黒句轆轤の姿だった。握った灰皿を振り下ろす位置は米崎の首を目指している。

 米崎にとって、それを躱すのは容易だ。銃弾の軌道から逃れる為に多少態勢を崩しはしたが、振り下ろされる鈍器程度であれば容易に対応できる。

 米崎が片方の足を動かそうとした時、米崎は異変に気付く。足になにか絡み付くものがある。足首を圧迫する感覚からそちらへ目を向けると、先ほど睡眠ガスによって倒れた少女が、米崎の足首を両手でつかんでいた。そこで、米崎は理解する。そうか、今の銃撃も、この少女が何らかの通信手段をもって外部の仲間に行わせたものだということか、と。

 黒句の灰皿が振り下ろされる。米崎は落ちてくる灰皿を掴んでいる腕をつかみ上げた。

 黒句は空いた片手で衣服の中から刃物を取り出し、米崎の足を狙う。それは先ほど黒句を襲撃した女性が持っていたもので、持たせた本人である米崎には記憶に新しい物だったが。

 刃物を持った手を掴み、米崎は黒句と伍波に四肢を封じられた態勢になる。

 その状態で、米崎は口を開いた。




「離せ。そして――」




 次の言葉を言おうとしたとき、米崎は何故か黒句が眼を強く瞑っていることに気が付いた。下の少女も、黒いフードを被り、地に伏せている。そうして、黒句の背後に何か缶のようなものが落下している最中だと言うことを視野に入れた。その正体を、米崎は経験で知っている。

 瞬間、室内にとてつもない閃光と爆音が響き渡る。閃光音響手榴弾。またをスタングレネードという、非殺傷兵器。籠城するテロリストやバスジャック犯などに使用される鎮圧兵器だ。

 当然、他国でテロ行為をしていた米崎には、嫌な意味で親しみのあるものだったが。

 ――音の阻害と、あわよくば鎮圧か。

 米崎は閃光と爆音がする中で、自由になった腕で閃光から眼球を庇い、室内から逃走した。

 その場で誰一人として、米崎を満足に追うことが出来る人物は存在しなかった。


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