表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
extra etc. fetus-  作者: サイタマメーカ
対象、米崎稲峰。48時間
29/60

殺人者とテロリストの邂逅

『500。伍波百花ちゃん? 分かる? 伍波ちゃーん?』

 伍波と別れた黒句は、手持ちの非殺傷兵器を用いながら、妨害をする局の人間を無力化しつつ、標的のいる部屋へと歩を進めていた。『無言通話』で伍波自身に状況を聞こうと何度か試してはいるが、一向に伍波本人は『無言通話』に答えない。

「拙いかな。ちょっと」そんな焦燥が、黒句を包む。ここに来てようやく、黒句轆轤は仕事に関する意気を上げ始めた。「できるだけ、早めに行くか」

 そう口にしつつ、通路に睡眠薬入りの筒を投げる。通路を進めば進むほど、その人数は先ほどよりも少なくなってきた。さっきの袋小路のような行為が、最初で最後の防衛ラインだったのだとすると、何のために彼らは今も黒句に向かってくるのか。

 一度、一人くらいは意識を残して、理由を聞いてみようか、と伍波がここにいれば思ったかもしれないが、そんな時間は今はない。通路を数分進んだところで、目的の部屋に辿り着いた。部屋の重厚な扉は開いていて、隙間は確実に伍波のような子供が侵入した形跡だと分かった。

『500。伍波ちゃん、いるならさっき渡したマスクしてね』そう述べて、黒句はその隙間に、睡眠薬の筒を投げ入れた。内部から筒の起動する音がして、扉の隙間から白い霧が覗いてくる。そうして黒句は、今自分がいる通路に最後の筒を投げ、通路と部屋の内部を睡眠薬で満たし、黒衣のフードで頭をすっぽりと隠してから部屋の中に入り込んだ。

 白い、人体の眠りを強制的に誘発させる霧に覆われた部屋に、黒句はゆっくりと入って行く。

 室内にはまだ何人か人間がいたようだ。何人か倒れている局員らしき人間が見受けられた。

 そして、しばらく進んだところに、黒い外套を着た人物を発見する。

 その人物は確認するまでもなく、先ほどまで黒句と共にいた、伍波百花だった。

 確認の必要が、何故不要だったかと言えば、彼女は、マスクをしていなかったからだ。

「……おっと」そこで、白い霧の中から一瞬火花と鈍い音が目と耳に入り込んだ。黒句は自分の右肩に何かがぶつかり、強い衝撃がその部分に訪れたことにより、発砲されたという事実を確認する。衝撃は右肩から身体全体へ。強い力に突き動かされるように、黒句の身体は後ろに下がる。黒句は、衝撃に抗うことをせず、みずから身を後ろに下げることで衝撃を緩和した。

 そして、今の発砲音と、黒句が感じた衝撃から、それが実弾ではないことを確認する。

 ――ああ、そういうこと。

 しばらくして、白い霧が水分となって地面に落下したころ、黒句は目の前に一人の人物が、自分に銃を向けて立っていたと言うことを認識する。身長は百八十センチほどだろうか。かなり長身で、体格は大きい。そしてその人物はマスクを被っていた。黒句と同じ、黒い簡易のガスマスク。言うまでもなく、それは今まで伍波がつけていたものだ。

「ああ、これか」銃をもっている人物から、くぐもった男性の声が漏れる。「そこに倒れている少女から頂戴した。お前と同じものだ。何かをこの部屋に投げ入れていたから、剥がして利用させてもらった。ついでに、この銃もそうだ」

 米崎は、手に持っていたグロックをその場に投げ捨てる。そのマスクも、持っていた銃も、すべては今横になっている伍波から奪い取った物だろう。その様子を冷静に黒句は見て、米崎に対して行った行動は、自分の顔に着けていたマスクを外すという行為だった。

「初めまして、になるかな」黒句はあくまでいつもの調子を崩さずに、米崎にそう述べる。「米崎稲峰くんだろ? 俺は黒句轆轤って言う。今きみが付けているマスクと、捨てた銃を持ってた子の仲間だよ」

「知っている。家納を殺害したのはお前だろう」へえ、と黒句は米崎を窺い見る。例え米崎がでまかせで言った言葉だったとしても、その発言は正解だ。「お前も子供か。そこの少女と言い、殺人を容認するのに対してずいぶん幼気なことだな」

「それはどうも。本当は子供じゃないけど、いちいち否定すんのもシンドイからいいや」

 そう言って、黒句は机の上に置いてある局員の物と思わしき灰皿を手に取った。

 重さ的には三キロほど。色は緑で円状。用法は、言うまでもないだろう。




「止まれ」




 瞬間、黒句の動作は停止する。いや、黒句に取って見れば、これは手足が言うことを聞かなくなったことと同じだ。両手両足の筋肉が、強い力が入った状態で全く動かなくなった。




「余計なことはするな。おれの話が終わるまでは止まっていろ」




 米崎の口から出て来た命令形の言葉は、彼が黒句に発したどの声とも違っていた。黒句が率直に感じたことをそのままに記せば、「複数の音が何重にも混ざっている」だった。

 ある部族は同時に複数の音を口から発することができるという。しかし今黒句が米崎に感じた複数の音響は、二つや三つという数ではない。少なくとも五つは混ざっている。

「分かったよ」言って、黒句は灰皿から手を離す。それくらいの動作は、可能なようだ。

 ――しかし、最悪のケースだな、こりゃ。

 催眠薬の霧が地面に落ち切ったのか、辺りは白い霧ではなく、薄暗い、複数のモニターの映像が光る部屋が、黒句と米崎の前に広がっていた。

「黒句轆轤――と言ったな」そう言うと、米崎は自分のしていたマスクを外して見せた。

 その顔は、一に見せてもらった学生の頃の写真とは似ても似つかない様相だった。

 真っ黒い、光の宿っていない眼。どうしたらそんな冷たい形相になるのかと疑うほどに、米崎稲峰という人物からは温度というものを感じなかった。体温の話ではない。生きているかどうか、という受動的な温度である。黒句にしてみれば米崎という男は生き物とは思えなかった。

「おれは、米崎稲峰だ」黒句の前にいる男は、そう述べた。「もっとも、名前も顔も、もう珍しくはなくなったようだから、顔を晒して名乗ったところで、重要度は低いだろうが」

 米崎はそう言って、床に倒れている少女を一瞥し、それから黒句に目を向けた。

「そいつからお前らのことは大方聞いた。お前らは『世の中を揺らしかねない存在を排斥する存在』だそうだな。馬鹿みたいな話だが、そういう殺人者だと」

「そだね」伍波百花という少女がそれを話した、というのは、今黒句に起こっている現象と合わせて考えて、おそらく、抵抗の余地なく喋らされたのだろう、と黒句は推測する。「でも、君が話を聞いたそこの女の子は別だ。彼女はまだ殺人っていうのを経験していない」

「お前らが、殺人――つまりおれを標的にしたということは、おれはこのまま進めば、日本という国に大きな害をもたらす人間、ということなんだな」

「仮にも東京全体で器物破損なんてことをやらかす人間が、世の中を揺らさない訳がないと思うけどね。きみとしては、やっぱりそれは不本意なのかな」

「いいや。願ったりだ」その返答は、黒句の想像しているものとは違った。「お前らが来たことで、おれは確証を持って破壊活動を行える」

 黒句は、そんな米崎に明確な違和感を覚えた。なんだそれは。仮にも自分のメンバーを殺害し、生き埋めにし、しかも自分をも殺そうとしている黒句に対して、自分を殺害しにきたことを行幸と言うのは。黒句には、その理由なるものは一切認識できなかった。

「後で外にいる人数、何をしようとしているか、厳密におれを殺す方法が、何通りあるのか後ですべて話してもらうが、それよりも聞いておきたいことがある」

 お前ら、本当に人間か? 米崎は言う。

「数日相手にして、多少分かったことがある。お前らはまず電子映像に移らない。実物はお前のような人型であることは分かったが、電子映像には黒い靄のようになって映り込む」

 黒句らのメンバーは皆、電子映像には正常に記録されないことになっている。厳密には、カメラには映って入るが、その入力先、保存先のデーターが黒句たちの部部だけを破損する。

「次に、その身体能力。その少女を相手にして分かったが、反射速度と単純な身体能力が、人間の限界を超えている。そもそも人間には限界速度というものがある。それを、その小さな少女は易々と超えていた。馬鹿馬鹿しいの限りだが、これもお前らの特色だろう」

 そして最後に、と米崎は口を開ける。

「お前ら、一体どこから出現している?」ここまで気付かれたのはいつ以来かな、と黒句は米崎のことを多少珍しいものを見る目に変わった。「赤岸に会ったなら気づいているかと思うが、おれ達は東京にある程度の監視カメラをしかけた。それでお前らがどこから現れたのか、検証したが、お前ら、つまり映像上に黒い靄が映り込んだのは、いつも上空からだった。数メート

ル上から、もしくは人とあまり変わらない高さから、お前らは急に現れた」

 技術ってのは進化するもんだなぁ、と黒句は寝惚けたことを考えていたが、それには答えることをしなかった。答えたところで、それは無駄な発言になるだけと分かっていたからだ。

 ただ、無視はよろしくないだろう。

「どこから現れたか、なんてことは重要じゃないだろう。仮に俺たちが、きみらで言う宇宙人みたいなもんだったとしても、きみがやることは変わらないだろう?」

 米崎は、そこで追究するのを辞めた。この行動は黒句にとっては意外だった。彼なら、大した労力を使わずに黒句に真実を訊き出すのは難しくはないはずだ。黒句自身、若干そうするように誘導したのだが、しかし米崎はそんなものに興味もなくなったと言うように、息を吐く。

「じゃ、俺からも訊きたいことがあるんだけどさ」黒句が発言する。「きみ、なんでこんな悪戯紛いの『テロ行為』なんてことをしてるわけ?」

 これは、黒句個人の質問だ。黒句のメンバーがするようなものではなく、そもそもメンバーの認識はあくまで米崎稲峰の殺害であり、話しをする必要すらないのだが。

「きみがやってることはさあ、話しを聞いてる限りじゃ、全部が全部稚拙なんだよ。東京二十四区で大規模な器物破損。ドームに人と武器を集めて、大衆を襲撃。テレビ局を乗っ取る、なんて、俺が言うのもなんだけど、馬鹿馬鹿しいの限りじゃないかな。きみの目的が分からない」

 手足がまったく動かない状態で、黒句はそんなことを言う。それは義務でも仕事でもなく、あくまで個人的な発言だったが。


「おれが、人間が嫌いだからだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ