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extra etc. fetus-  作者: サイタマメーカ
対象、米崎稲峰。24時間
22/60

あるテロリストの会話

 暗い部屋に、その人物はいた。周りには様々な映像資料や資料やら機材やらが山積していて、一人暮らしには十分なスペースを圧迫している。その中で、光る三つの画面を眺めながら、片手には改造したスマートフォンを片手に持ちながら、その人物は口を開く。

「家納さんに続き、赤岸くんまで動けなくなったね」室内で発された声は高い、女性特有の物。繊細で、まだ最後の幼さを残していた。「これから、どうする? 米崎くん」


『どうするも何もない。このままやるべきことを、やっていくだけだ』


 近代化した通話機の中から、男の声が響く。それは、様々な音響が様々な位置から発されて、複雑に組み合わさったかのような、声だった。


『明日の計画に赤岸は関わっていない。それに、奴はあの黒い霧の注意を惹きつける為の囮だったはずだ。そう踏まえれば、奴は立派な布石にはなった。何も、問題はない』


「布石、ねえ」


『まだ生きているんだろう? 古木(こぎ)さんがおれに教えない理由はこちらで勝手に考えるとするが、とにかく、奴は当初の目的以上の成果を出した。敵の把握と、正体の究明。そしてその靄が何であるのか、その特徴までの情報を得ることに成功した。潜伏していた「Tokyo new arena」に警察が来ているという情報もあるから、福音ばかりとも言っていられないが』


「それだけじゃないよ」古木は、今しがたパソコンに届いたメールの一通に目を通す。「今さっきのことなんだけど、ちょっと面白いメールが米崎くん宛てに届いてるよ」

 それには、受話器の向こうの人物は返事をしなかった。米崎に古木と呼ばれた人物は、そのメール内容を音読してみせる。

「黒い靄に接触しました。彼らは人間です。会ったのは『Tokyo new arena』の近くの喫茶店で、男女の二人。一人はわたしの友人でした。男の方は画像の黒い衣服を着ておらず、こちらに来るときに『終わった』と話していたことから、彼が赤岸を行動不能にした人物だと思います――だって。これ、送ったのこないだ一派に入ったあの萩原円居ちゃんなんだよね」

『…………』受話器の向こうの相手は無言を決め込んでいる。

「萩原議員との話し合いは、進んでるの?」


『どうとも言えん。近々直接話に行こうとは思っている。それほどの行動をこちらが起こさなければ、向こうに緊張状態を与えることは不可能だ。できればマスコミも操作できるといいだろう。それを発信しなければ、意味がない』


「じゃ、今日準備したことで、明日することもその布石、みたいなところはあるのかな」


『そうだな。古木さんには、協力をしてもらったことは感謝している。あれだけの数をよくも用意してくれた。これでようやく、日本に来てから大規模な行動に移すことができる』


「前にやったのは、確か東京の巨大ディスプレイと報道に『混ぜた』時だったね」

 数週間前の暴動のことを、古木という人物は指す。東京二十四区を半壊するまでに至らしめた、あの人民による最悪の暴動を、彼女は指摘した。


『あれはテストだ。そして明日が試作。本番は、このずっと先だ』


「ふうん、まあ、いいけど」古木はそう述べて、受話器の向こうにいるであろう相手、米崎に問いかける。「ねえ米崎くん、本当は赤岸くんのこと、仲間とも何とも思ってないでしょ」

 というか、他の誰の事も、仲間などとは認識してないでしょう、と古木は言う。


『愚問だ。人間がどうしておれの仲間になり得るんだ?』


 返って来たのは、そんな言葉。古木は、きみだって人間の癖に、とは口に出さなかった。


『失望でもしたか?』


「さあ。私に主体性はないかな。米崎くんが言うことをやるだけだよ」


『それは助かる』


受話器の向こうの相手は、感情を感じさせないような声でそう言った。


『明日の計画は古木さんなしでは成立しない。古木さんとしては好きでテロなどをしているわけではないから不服かもしれないが、力を貸してほしい』


「プレッシャーかけんなよ」

 そう言って、古木という人物は通話を切った。そうして、目の前のメール文書に目を向ける。

 両耳に引っ掛けているパソコン用の眼鏡は視界を若干茶色に染めながら、その光学モニタから目を保護しつつ、それでも目に負担を感じて、パソコンから目を離した。

 椅子に身を預けると、椅子のスプリングがぎい、と悲鳴を上げた。顔を薄暗い、明かりもつけていない部屋の天井に向け、息を一つ吐きだした。

「米崎一派――か」自分の所属している、というか自分が名付けた組織名が、今世間を騒がせているというのは、いかにも冗長と言える。「――今回、死んじゃった人とかいたのかな」

 言ってみたら、それはどうしようもなく救いようない結果を導き出しそうな気がして、その思考を即座に中断せざるを得なかった。そうするとそんな良心の呵責は、数秒の内に霧散した。

「さいっ――てー」向けたのは、自分への言葉。それは誰にも聞かれることなく、真四角の部屋の中で消えて行った。


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