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extra etc. fetus-  作者: サイタマメーカ
対象、米崎稲峰。24時間
19/60

お遊戯終了…………天井を落とせ

 出口まで、あと二十メートル。黒句の背後には地上に続く出口のようなものが見えてきた。

 同時に、黒句が今走っている通路に誰もいないこと(、、、、、、、)を確認する。

 黒句と赤岸の距離は現在五メートルほど、近づかれたり離れたりを繰り返している。安全圏かどうかは疑問が残るが、まあ、仕方ないだろう、赤岸を撃退するには苦肉の策だ。

 黒句はそこで、後ろ向きに走行する過程で、自分の走っている通路の天井に何かが取り付けられていることを確認する。そうして黒句は他のメンバーに対して『無言通話』の所作をした。

『起爆で』

『了解』

 黒句の頭の中で、誰かの声がした。その時点で、黒句は身を庇う態勢を取る。

 その瞬間、黒句と赤岸の走っていた非常通路の天井が爆発した。爆破箇所は赤岸の少し後ろと丁度黒句と赤岸の間。爆炎と共に落ちて来たのは、爆破によって崩れ落ちるコンクリートの天井だった。

 そこでようやく、黒句は赤岸に背を向ける。出口に続く十数メートルほどの通路の天井には、あと二つほど、黒句の先の天井に「それ」は取り付けられていた。

 足を軸に、走る速度を一切落とさずに、その場で黒句はクイックターンしつつ前方に走り出す。できうるか限りの全力で、コンクリートの地面を蹴る。その動作と、目の前の天井に設置された「それ」が起爆したのは、ほぼ同時だった。

 爆炎の中に突っ込む。動物を思わせるような俊敏な動きで、一人の少年代の生物が、その中に飛び込んでいく。爆風によって若干なり速度を落とされたことにより、崩れた天井の瓦礫が黒句の頭上に振りそそぐが、大きな瓦礫ではない。小さな石に体中を斬りつけられながら、黒句はその先へと走る。最後に仕掛けられたそれを目視した時、その場で黒句は速度を利用して地面に滑り込んだ。天井に仕掛けられた最後の「それ」が起爆したのは、黒句が両手で顔や胸を庇う姿勢を取り、滑り込みによって「それ」を通過した後だった。

 爆音と爆風。瓦礫の散弾が摩擦によって速度を落とす黒句を捉えることができずにコンクリートの地面に降り注ぐ。

 黒句は速度が落ちてきた時点で、すぐに地面を転がり体を起こす。後ろには天井を爆破されたことによる瓦礫がコンクリートの地面に降り注いでいる。次いで、砂が流れ込むように、天上そのものが通路に陥落し始めていた。

 黒句たちの作戦は、言ってしまえば閉じることのできない地下の通路を爆破し、崩してしまうことだった。問題はプラスチック爆弾の設置時間だが、そのための時間稼ぎと囮の役を押し付けられたのが、この案の提唱者である黒句だった。ちなみに、最初にアリーナの中に入り、赤岸と会話をさせられ、睡眠薬を落とす行為を押し付けられたのたのも黒句だ。

 ――爆弾は、威力を落とした物のはずだったけど。

 黒句の予想に反して、それは大きな爆発だった。すぐにでもここから出なければ、黒句も瓦礫の下敷きになってしまう。

出口はもう目と鼻の先にあった。前には鉄製の梯が見える。それは上の三メートルほどの上の高さに伸ばされていた。そちらに、即座に向かう。

 そこで、後ろから服を掴まれた。

「逃がさねえよ。タコ野郎……!」

 そこには、降り注ぐ崩れ落ちる瓦礫の中から手を伸ばし、黒句を瓦礫の下に巻き込もうとする、悪辣な表情で笑っている赤岸の姿があった。

 一瞬停止したことにより、黒句の頭上にも瓦礫が落下する。灰色の砂塵が目の前を覆う状況で、黒句は赤岸の腕を冷静に蹴り上げた。当然、そんなものでは赤岸赤子の握力は揺るがない。

 その、蹴り飛ばされ、若干上げられた腕に、大型のコンクリートが落下する。片方の腕を同じように、赤岸の腕は、瓦礫に押しつぶされ、ばきりという音を上げてひね曲がった。

 黒句は赤岸を落下する瓦礫の中に蹴り飛ばす。

 赤岸は態勢を崩し、後ろに倒れ込むと同時に、その身体の上に大量のコンクリートの瓦礫が降り注いだ。その場から離れた黒句は出口に伸びる梯を掴みとる。

 それから数秒。黒句が見た者は、天井部の崩落によって構築された、瓦礫の壁だった。

「……まあ、あの身体なら、救出は不要かな」

 瓦礫の中に埋まった赤岸に対して黒句が発した言葉は、そんな冷めたもの。

 とりあえず、これで赤岸赤子が起こそうとしていたテロ行為は阻止した、と言っていい。こちらの出口は塞がった。残りの出口は、金崎先輩たちがどうにかしているだろう。

 そうなれば、ここにいるのは危険だ。最大の崩落は過ぎたものの、次にまた崩落が起きるか分からない。場合によっては、出口にいる黒句すらも巻き込まれる。

 梯子を上り、街の中に出る。そこは大通りの中心だった。十字路の道路を車が無数に通る場所で、通行人の数もまばらだ。しかし地下に造られているからか、中で爆発が起こったにもかかわらず、地上の地面にはなんら問題はなさそうだった。

 拙かったのは、若干なり地下で起こった爆音を聞いた通行人が、無言の圧力のようなものでこちらを睨んでいることだけだった。まあ、これに関しては仕方がない。黒句には、顔を覚えられないように彼らと目を合わせないように速やかにその場を離れるということしかできなかった。それでいいだろう。仮に携帯機器で写真を取られても、どうせ正確に記録されない。

次に黒句が取った行動は、人目につかない場所で警察に地下の崩落を連絡する、ということだけだった。一応、人が埋まっているかもしれないということを伝えて遠回しに救助を依頼した。通話に扱ったのは時代錯誤的に残っていた公衆電話だったが、まあ、恐らくここを使用したことはすぐに気づかれるだろう。

『966#。黒句、こっちは終った。もう帰っていいぞ』

 公衆電話を出たところで、頭の中に声が響く。黒句も、それに伴う所作をした。

『帰るって、でも住処にじゃないでしょ?』

『当たり前だ。場所はこっちで取ったからそこに来いって意味だよ。どこかで油売ってる新米と一緒に来ること。まあ、別に強制じゃないから、おまえで勝手にやってもいいけど』

『あいあい』

 頭の中に声が響かなくなったことを確認して、黒句は息を吐く。

「まずは伍波ちゃんを探すことかなー。……いや、その前に」

 黒句は自分の身体を見る。黒衣を失い、瓦礫の砂塵と粒によって傷の上に粉塵を振ったような、灰色の腕が見えた。

「身なりだけ正してから行こーかしら」

 それからしばらくして、赤岸が埋まっているであろう地下通路の方向に数台の警察者が駆けつけていることに気がついた。行動が早すぎる。恐らくは黒句以外のメンバーが既に彼らに通達していたのだろう。ここに残っている黒句のことなど一切視野にいれていないような行動だが、まあ、同じメンバーとして国家公務員を振り切れないようでは駄目だ、ということか。

 その、崩れた地下に入って行く様子を見て、黒句は独り、つぶやく。

「……できれば、無傷で治めたかったな」

 その言葉は、誰の耳に入ることもなく、黒句の周囲に霧散した。


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