表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
extra etc. fetus-  作者: サイタマメーカ
対象、米崎稲峰。24時間
17/60

分かってからの炎上

 黒句の雰囲気が変わったことに、赤岸も警戒を露にして、表情を険しいものに変えて目の前にいる黒句を睨み見る。その視線に臆することなく、黒句は言葉を紡ぐ。

「まあ、俺たちにとって、きみが参加した理由なんてどうでもいいんだけど。ただ、一つだけ言っておく。きみが、俺の後ろに行こうとしたら、俺はきみを殺さなきゃならない」

「冗談に聞こえねえな」

「冗談じゃねえよ」低く、怒りを伴った声を、赤岸という少年に対して黒句は初めて出した。「それに、俺も遊びでやってるわけじゃない。きみが抵抗するなら仕方なく殺害する、そういう指示がもう出てるんだよ。そこまできみはもう進んだ。だから止まるならここが最終ラインだ。それを無視するなら、もう遊戯は終わりにしよう」

 黒句は真っ直ぐに、赤岸を見据える。赤岸にはその眼が、黒い光を放っているように見えた。

「ま、なんつって」そう言って黒句は、表情を一変させる。それは以前の、ふざけきった態度だった。「そんな風に強い言葉を真剣な顔で言えば、きみみたいな子供は素直に従ってくれるかなー、なんて思ったけど、やっぱ駄目みたいだね。シンドイ」

 黒句は様子を変えたが、しかし先ほどの言葉がすべて口から出た出まかせとは、赤岸は思わなかった。少なくとも最初の言葉と最後の言葉は真実だろう、それくらいの見当はつけていた。

「つまりオレは、そこを力づくで通ればいいんだな?」

「通れるならね。しゃーない。久しぶりにちょっと、丁寧にやるか」

 赤岸は身構える。態勢を低くし、先ほどの跳躍をするつもりらしい。確かに、黒句にそれを止める術はない。どういう仕組みは知らないが、黒句と赤岸では、身体面で優秀なのは明らかに赤岸だ。突進を受ければ、そしてもしも黒句が後ろの通路に通してしまえば、それで終わり。

「ね、赤岸くん」急に、そんなことを言われたので、赤岸は若干突撃の姿勢を崩す。それを口にした黒句は、何の姿勢も取らないまま、赤岸の前に立っていた。「きみたちの指導者、今世間で言われてる名前じゃ、米崎稲峰くんだっけ? 彼のテロに加わった理由ってなによ」

 いきなりの質問。赤岸は、このまま突撃すればもしかしたら抜けるんじゃないか、と思ったが、それがどうやら楽観だったことを認識する。態勢を変えていない、とは言うが、それはまるで、赤岸がどのような行動を取ったとしても反応できると言っているようでもあり、かつ、目の前の少年ならそれをやりかねないと判断して、赤岸は立ち止まった。

「俺は、その米崎くんのことは良く知らないんだけど。なに、彼はそんなに魅力的な指導者なの? 東京都を半壊させるとき、彼はそんなに高尚な理由を持ち上げたのかな?」

「知らねえよ」少なくとも、赤岸赤子が米崎稲峰という人物に対して共感したことはない。

「ふーん」そう言った瞬間、黒句は赤岸に接近した。間延びした口調とは正反対な俊敏な動きで、赤岸の距離まで走行する。初速から最大速度を出す短距離走。逆に盲点を突かれたことにより、赤岸は一瞬その場で硬直する。ようやく足が動いた時には、黒句はもう赤岸の至近距離まで迫っていた。反射的に手を付きだして迎撃するが、黒句はそれを縫って、赤岸の衣服の中にあるものを両手で掴み上げる。赤岸は腰を捻り、体の回転によって黒句の側頭を蹴り上げた。

 衝撃を受け、後ろに下がった黒句が両手に持っていたものは、赤岸の上着の陰に収納されていた、巨大な刃を持つ二本のサバイバルナイフだった。日本の包丁ほどの刃渡りをもつナイフを、赤岸に蹴り飛ばされるまでの間に抜き取った。黒句を蹴り飛ばした赤岸が認識したのは、そんな事実だった。

 当の黒句自身は両手に盗った刃物を眺めながら、溜息を吐く。

「よくやる」奪った本人は指を使って、くるくると器用に刃物を手のひらで回転させる。「こんなでっかいナイフどうするつもりだったのよ。切られたら骨ごとやられそうなんだけど」

 答えることもせずに、赤岸は黒句に向かって突進した。

 いや、正確には、その後ろに続く通路に向かって、だが。

 黒句は右手の刃物を逆手持ちにして回転を止め、刃物が対象に食い込んだ場合もっとも力の入る持ち方でナイフを持つ。左手の刃物はそのままの持ち方で、赤岸が駆けてくる方向に投擲した。刃物自体に重量があったことと、黒句が単純にそういった方法で投げたために、大型の刃物はその身を回しながら赤岸に向かって行く。

 三回転した辺りで赤岸と衝突するが、当の赤岸は左手を盾にして、その刃物を薙ぎ払った。場合によっては刃が骨まで届くであろうその凶器を。そこまでして、赤岸は現在の速度を落とすことを放棄した。赤岸は最大の速度のまま、黒句に向かって走ってくる。

 赤岸が突進し、黒句との距離が一メートル以内に入った時、黒句はその場で足を軸にして回転した。身体全体を独楽ように回し、そのまま突進してくる赤岸を躱す(、、)

 視界に黒句が消えたことを、走行していた赤岸は認識する。

 次の瞬間、赤岸の視界がぐらりと揺らいだ。いや、揺らいだのは視界ではない。前にのめりになり、減速の摩擦により、赤岸はコンクリの地面に擦るように叩き付けられる。

 ――? 何が。

 原因を自分の眼で確認しようとして、周囲を見回すと、自分の喉笛に大振りの刃物が当てられていることに気が付いた。視線を上げると、そこには黒い外套を着た少年の姿があった。

 そして遅れて原因を発見する。投げ出されるようにしてコンクリートの上に置かれたふくらはぎに、赤岸は巨大な切断の跡を発見した。自分の体重を支える片方の足、その主筋肉が破壊されたために、走行を持続できず、赤岸は倒れたのだ。赤岸自身に、その自覚はなかった。

「――そういうことか」赤岸の喉笛に刃物を押し付けている黒句が発した言葉には、何故か安堵が混じっていた。「きみ、生身じゃないんだな」

 黒句がそう発言した理由は、切り裂かれた赤岸のふくらはぎの断面から。

 赤岸の脹脛からは血液が出ていなかった。それどころか、斬りつけられた赤岸自身が痛みを感じている様子がない。斬りつけられた足には、黒いチューブのようなものが露出していた。

「それ、義足か」黒句が言う。赤岸の足から覗いていた黒いチューブのようなものは、電力供給によって伸縮を即座に可能にした人工筋肉だ。ただの義足で、あそこまでの走行が可能というのは、黒句から見れば信じがたい事実だが。「ああ、そうかそうか。そういうことか、きみ」

 そこで、黒句の中で要素が繋がる。

「きみの体重が見た目に反して軽いなー、とは思ってたけど。きみは、体の部品を無機物に変えているんだな。現に、その足から見えるのは無機物だ。さっき刃物を腕で防いだのも、体に負荷がかかるほど早く走れるのも、催涙弾や睡眠薬が効かないのも、そのあたりにあるのかな」

 赤岸は答えない。

「さっききみは、自分のことを『透視能力者』だと言ったね。でも、これを見る限りじゃあ、それも嘘のようだ」そう言って黒句は、赤岸の右に入っている人口の眼球をまじまじと観察する。「きみの右目に入っているのはカメラだね。原理としてカメラから脳にどうやって映像を送ってるのかは知らないし、人間の技術がそこまで到達したってことで安直に決めつけるけど、それなら少なくともきみは透視能力者じゃない。きみはただ、監視してただけだ」

 監視カメラの映像、と黒句は言う。

「きみは自分の眼球の代わりにカメラを埋め込んで、その映像を視力として利用している。だったら、遠隔地にある監視カメラも同様だったらどうだろう? どういうわけか、きみは取り付けたカメラ映像が頭の中に出力されるようになってる。つまり、二つの眼以外にも、取り付けたカメラの数だけ視界を保有している。それでアリーナの外にいる俺達に気が付いた」

 黒句は、自分が言っていて馬鹿馬鹿しくなるような事柄を口にしていることを自覚する。しかし、そういった馬鹿馬鹿しいことを可能にしようとするのが技術と言うものだ。

「きみは透視能力者じゃない。でも確かに、これは異質だ。生物の身体って言うのは、外部から入って来たものを拒絶するようにできてる。人間の意思とは無関係にね。けどきみは、それがない。つまり、拒絶反応が起こらない身体だ。むしろ、外部からの影響を受け入れている。確認できたのはきみの右目と足だけど、本当はどこまでが無機物で作ってあるのかな? 漫画とか映画みたいに、まさか全身を、ってわけじゃないよね?」

 カメラの電子映像を自分の視界として組み込み、自分の身体を無機物にして強化する。その完成品が、赤岸赤子という少年であると、黒句は確信する。先ほど彼に蹴り飛ばされた時も、狙われたのが側頭であったにも関わらず。その時の衝撃は軽く、今も問題なく直立できている。赤岸の体重は、大方二十㎏にも満たないだろう。だからあの体躯で俊敏なのだ。

「まあ、無機物化がどこまででもいいや。でも少なくとも、どこかに生身の部分はあるはずだ。この手のSF物の常識だね。きみはブリキの人形じゃない。例え心臓がなかったとしても、その機能の代わりを果たす装置があったとしても……だ」黒句は、赤岸の喉に歯を二ミリほど食い込ませる。「脳だけは替えが効かないはずだ。それをとっかえひっかえしてたら、もう生き物だかそうじゃないかも分からなくなる。そしてその脳は、人間は頭にしかない。人間の頭と体を繋ぐ部位も一つしかない。つまり、きみが体全体を無機物に変えていたとしても、脳を生かすための機能は、首に集約しているはずだ。頭の悪い言い方だけど」

 そう言って、黒句は赤岸の首に刃物を少し食い込ませた程度で動きを止めた。

「まだ携帯できる武装は持ってるだろう? 月並みだけど、死にたくなかったら自分の手足をそれで破壊してくれないか? 義手なら、また作り直せばいい。完全に破壊を確認したら、刃物をどけるよ。その後は好きにすればいい」

 黒句にとって、行動不能になった赤岸赤子などにもう用はない。そのままこの通路に置き去りにして、閉じ込めるだけだ。義手を使っている人の特徴として、幻肢痛くらいは覚悟してもらうことになるが、背に腹は代えられないはずだ。

 その時、黒句はあることに気が付いた。

 赤岸赤子の首筋――いや、その周りに、なにか小さな穴のようなものがある。彼の身体は無機物だ。何の穴かと見たところ、それはどうやらスプリンクラーなどの放水口のようなものであることに気が付く。そして、その穴から微量ではあるものの、何らかの液体がすでに流れているのを視界に収めた。赤岸の服はすでにじっとりをそれに浸っていて、彼の刃物を首に突き付けていた黒句にも、それは認識できた。

そして、水分が気化したらしく、その臭いが黒句の鼻孔に届く。

それは、間違いなく、ガソリンという液体だった。

「…………っ!」危険を感じて、黒句は赤岸から離れようとしたとき、赤岸の身体から、橙色の炎が、まるで急速に膨張するかのように周りの空間を飲み込んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ