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extra etc. fetus-  作者: サイタマメーカ
対象、米崎稲峰。24時間
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ころり

「は、やっと来たな」そう言って、それまで座り込んでいた赤岸赤子は立ち上がる。その発言に反応できたのは彼の周りにいた者達だけだったが、次に赤岸が眼を向けた方向によって彼らも一斉にそちらを注視した。「おい、どっから入って来たんだよ、テメー」

 そう、赤岸が口を向けて発した声の方向は、彼らの真上に当たる位置だった。上空三十メートルほどの位置にある職員専用の点検通路。その位置に何者かがいることを赤岸は感じ取った。

『ありゃ、バレちゃったか』上空からは、そんな雑音だらけの機械音が聞こえてきた。市販されている、それも玩具に近いメガホン。その音質に近いことを、最初に声を発した赤岸は読み取る。『一応これでも、気付かれないように入って来たつもりだったんだけどなあ。一体きみ、どこで気付いたの?』

 そんな間の抜けた声が響いてきたことに、集団は一斉に上空に手に持っていた銃口を向ける。が、それを傍にいた赤岸が制止した。

「撃つな単細胞。それより周囲散策。あいつは囮に決まってる。周囲の出口を塞がれないようにすることが今やることだろうが。それくらいは気づけタコ」

 赤岸が言うと同時に、周囲の男たちも糸が切れたように周りに散らばる。その様子を見て、彼らの遥か上空にいた人物はメガホンを手にしながら一つの所作をした。

 その瞬間、赤岸の指示で動いた男たちの先にある出口が一斉にロックがかかった。急に開かなくなった扉を前に、立ち止まる。

「――は」その様子を見て、赤岸は笑う。「このアリーナの電子ロックを起動させたってか。おまえら、オレらが乗っ取った制御室を占拠し直したな(、、、、、、、)。くだらねえ」

 言いながら、赤岸は思考する。この『Tokyo new arena』の開閉は大まかに分けて二つある。完全な電子ロックと、手動による開閉のみだ。その旨が伝えられているのはここに勤めている係員だけで、仮に知っていたとしても電子ロックを起動させるには数々の手順を踏まなくてはならない。まず、開錠のシステムを起動するのにさえ、八ケタ前後のパスコードが必要だ。

 それを取得するには、このアリーナの正式な権利を持つ国のデータベースにアクセスしなくてはならない。当然ながら、そんな権利は警察などの公的な期間ならば、権利を取るだけでも数時間。そしてその権利取得のために行わなくてはならない会談というものが必要になる。

 それが現に今成されているということは、交渉も何もなく、ただパスコードそのものを上の靄に日本国が与えたことになる。

 どんな特権だよ、とほとほと呆れる赤岸だが。

「これで閉じ込めたつもりかよ。こんなもん時間稼ぎじゃねえか。こっちにはそれくらいの扉なら強引に開くだけの装備がある。それを突破して、その先に五枚のシャッターがあるとしてもだ。そんなことはやる前から想定に入れてあるんだよ」

 頭上の相手は答えない。その反応は、この状況の赤岸にとって最も都合の悪い反応である。既に手は打ってあるが、それでも『無言』というものは相手が何を仕掛けてくるのか、しかも姿すら見えない相手に関しては、その兆候すらつかめない。

 その時、頭上三十メートル上から何かが落とされたことを赤岸は確認する。数は二つ。視野に捉えた時点で赤岸は服の中にあるホルスターから拳銃を引き抜きその落下物に向けて引き金を引く。二発は外れたが、三発目でその二つの内一つに命中する。命中した弾丸に押し返され、一瞬空中で落下を止めたそれは、赤岸が視界に収めた限りでは細長い筒状の何かだった。

 命中した瞬間。その『何か』から大量の白い煙幕のようなものが当たり数十メートルという広い範囲に拡散する。気体か、と思ったが、その白い煙幕がゆっくりと赤岸の方へ下がってきていることに気が付き、それが気体ではなく、小粒の細かい水滴であることを確認する。

 撃ち落とせなかったもう一つの筒が赤岸から少し離れた位置に落下する。地面に当たり、その衝撃と反発で空中に浮かんだその細い筒は、その時点で上空で撒き散らした白い霧を周囲に拡散させた。まるで一つの爆弾のように、その気化途中の水分は周りの空間を食い潰す。

「袖でいい、口を塞げ。これは気体(スモッグ)じゃない、地面にはしゃがむな」そう言った赤岸だが、その時にはすでに防護服を身にまとっていない米崎一派の過半数はせき込みながら地面に倒れるところだった。意識が朦朧としている以外に肉体に異変がないことと、衰弱もしていないことを確認し、霧の正体を赤岸は認識する。

 ――微粒子状の睡眠薬。しかも、瞬間的に拡散する奴かよ。

 瞬間的に目や口、耳などの五感を損傷させる系統の非殺傷兵器の部類に含まれる。

 霧の中に次々に軽い衝突音と、水が噴き出すような破裂音が断続的に続く。質量を持っているため、気体とは違い、上空に睡眠薬が昇らないことを利用して、上空から赤岸たちを無力化するという魂胆だろう。

 ――気に入らねえな。

 そんな怒りを内側にため込む赤岸だが、周りの状況が分からないわけではない。既に百人単位で存在していた米崎一派は動けるのが数十人という数までに減らされている。扉は開けることは可能だが、それには数人と数時間を用いて行う扉の溶解という作業が必要になる。今の状況では、そんなことが出来る人間は少ない。いたとしても、あと数十秒の内に催眠霧に当てられて不可能になる。

 ――アリーナ内の出口は塞がれた、残っているのは……まあ、あそこだけか。

 その場所に行くのも、恐らく赤岸一人が限界だろう。日本国においてここまでの装備をしている集団が、自衛隊や機動隊以外にいるとは考えていなかった。精々が催涙弾くらいだろうと高をくくっていたが、さすがにこれは予想外だ。

 催眠の霧の中を、赤岸は一人、歩き出す。上空にいた人物はもうその場を離れているだろう。

問題は、周りのメンバー百人が眼を覚ますまでにどれだけの時間がかかるのか。恐らく数時間では足りないだろう。時計の針が一回転するほどの時間が必要になるはずだ。

居場所が知られた以上、そんな時間までここに籠城するつもりはない。

微粒子状になった睡眠薬の中を歩きながら、赤岸はこれからのことを考え始めた。


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