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extra etc. fetus-  作者: サイタマメーカ
対象、米崎稲峰。24時間
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テロリスト……米崎稲峰

「黒句君、ちょっといいかな」伍波との初仕事から数週間後、自室の電話にその人物から通話があった。今回は受話器での伝達ではなく、実際のその人物の部屋に来てほしいと言う。またこの電子化の時代に顔を合わせる必要があるのか、と思う黒句だが、そこは組織人、文句は言わずに従うのが吉だろう。一言『分かりました』とだけ言って、通話を切った。

 自室を出てその人物の部屋に行くと、部屋のインターホンを押そうとした瞬間に扉が開いた。いつものことながら、この現象には背筋が寒くなる。

 十五畳ほどの部屋の中には大きな机が一つだけあり、そこには呼び出しをした人物と、もう一人。黒い外套を着た、少女がいた。

「あれ、伍波ちゃんも?」机の前に立っていた伍波は、黙って小首をうなずかせる。伍波がそこにいたことには、黒句としてはかなり意外で、だからこそ目の前にいる男に不信感を抱く。

 机に座っていたのは金髪に西洋人風な顔立ちで、茶色のコートを羽織った男だった。その人物こそ、今まで黒句に仕事を依頼した、受話器の向こうにいた人物であり、黒句をここに招いた張本人でもある。

 ちなみに、机に座っているという表現はこれで正しい。その男は、わざわざ用意した高級家具、そのデスクの真上に腰を下ろしているからだった。机に付属していた椅子には座らず、本来であれば書類などが置かれる木製の板の上に尻を付けている。扱い方としてはどう見ても不適切だが、この部屋にそれを咎めようとする人物はいない。言ったとしても、聞かないのを分かっているからだ。

「やや、黒句君。重役出勤で何より」そんな嫌味しかない言葉を、目の前の男は手を振りながら吐く。「一応伍波さんがいるんだから、そこは先輩としての威厳を示すところじゃないの?」

「リーダーの威厳を示さないあなたに言われたくはないっすよ。(はじめ)

 そう。今黒句の前で机そのものに腰をかけている男こそ、黒句たちの総取締役、社長のような立場にある人物だった。名前を『一』と書いて『はじめ』。黒句と伍波の名付け親でもある。

「要件は仕事でしょ? 内容さっさと話してください」黒句はそれ以上何かを言われたくはなかったので口を開く。「まあ、でも大体分かりますけど」

呼び出しを受けた時、黒句轆轤はあらかたの予想をつけていた。

一週間前、日本においてある事件が起きた。被害は関東地域において東京都二十四区全体。それほどの規模において、人々が暴動を起こしたのだ。暴動の最大の特徴は、誰もが加害者であったこと。つまり被害者と加害者の数はまったく同一で、発生原因も発生時間も不明。それほどの大きな暴動が、この七日間の間に起きたという事実だけが、日本国だけではなく諸外国に伝わっている。ニュースや新聞などのマスメディアの見解では、これは日本国始まって以来の最悪の暴動というものらしい。

「東京二十四区の人間のほぼすべてが、街中の器物破損を起こした」それまで黙っていた伍波が口を開く。「ニュースでは『原因の分からない暴動』みたいに言われてますけど、やっぱり、原因があるんですよね?」

 答えられるのかな、と内心思う黒句だが、当の一は笑って答えた。

「うん、あるよ。ちゃんとしたやつが」常時無表情である伍波の表情が変わる。まあ、と言っても目を見開いた程度にすぎないのだが。「一週間前に起こった暴動、その騒動の首謀者として、今見当がついてるのは一人だけでね」

 机に座ったまま、一は自分のライトブラウンのコートのポケットから一枚の写真を出して見せる。その写真に黒句と伍波の視線が集まる。そこに移っていたのは、一人の少年だった。

 高校生くらいだろうか。何らかの証明写真らしく、写っているのは顔だけで、その他の情報は得られない。そこに移っていたのは、黒髪に黒い眼の、精悍な少年の顔だった。

 異質な点を一つだけあげるとすれば、その少年の目つき。

 少年の目には、その黒い瞳孔の一切に『光』というものが宿っていなかった。

「えっと、すいません」初めに声を上げたのは、黒句だ。「まさか、この子がやった、なんて言いませんよね?」

「残念、そのまさか」嬉しそうに、一は言う。黒句には何が嬉しいのか分からない。「とはいえ、情報部によれば、この写真は四年くらい前の物らしいから、今は二十歳くらいだと思うけどね」

 一の言っていることが、黒句には未だに理解しきれない。たった一人の人間が、あの規模の暴動を起こしたというのだろうか。それは、しかし、突飛過ぎやしないだろうか。

「て、ことはその暴動を止めることを、俺達のメンバーの誰かが失敗したってことすか?」

 規模としては微妙だが、世の中に打撃を与えるという意味では十分な威力を持つ事柄を前に、黒句らの組織が動かないことは考えにくい。そう考えた黒句だったが。

「いいや、それは違う。ぼくらは、それをわざと見逃したんだよ」

 組織の最高執行責任者の口からは、そんな言葉が飛び出した。

「あの暴動は一つの様子見だよ。これで様子は見た。ようやく人物の殺害に移れる」

 そんな楽観的な言葉を吐いて大丈夫なのかと、黒句としては疑問視するところだが、一はそんなことは気にもしていない様子で話を続ける。

「君達に依頼したいのは、この写真に写っている彼、『米崎稲峰(よねざきいなみね)の殺害』だ」

 ――殺害。『削除』ではなく、『殺害』そのものを指す仕事というのは、この仕事におけるその人物の危険度としては最大を表している。この少年が、果たして本当にそこまで危険人物なのだろうか?

「大勢としては三十人くらい送ると思うから、君達にもそれに参加してもらいたい。まあ、今言ったのは最終目標であって、彼の起こすことが分かればこっちから順次連絡するから。ああ、あと伍波さんね、映像処理の件もあるから、カメラとかの心配はしなくていいからね」

 伍波がその言葉にうなずく。おいおいマジかよこんな仕事に子供を巻き込むのかよと、反論をしたい黒句だったが、その言葉は喉の奥に隠し代わりに別の言葉を吐きだす。

「あーちょっと待ってください。なんで彼がその主犯だと分かったんですか?」

 一だけではなく、伍波までもが黒句の方向を向く。その眼は、『何を言ってるんだ、こいつは』という色に染まっていた。理由が分からない黒句としては、苦く笑うしかないのだが。

 しばらくして伍波が、部屋の中にあった朝刊をつまみ上げ黒句に差し出す。

 そこには、『テロリスト 米崎稲峰 暴動実行を自白』と大見出しで書かれていた。

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