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09 スライム

そろそろストックが……

「いやあああああああああああああああああ!」


「おいおい……、女みたいな声だすなよ……」


「……ユウ、うるさい」


「ユウ! 他の動物が逃げちゃったじゃない!」


「……でも、」


「「「でも、じゃない!」」」


「だって……、だって俺の想像してたスライムとなんか違う!!」




◆◇◆◇◆




 ――話は数時間前に(さかのぼ)


「おし! 狩りに行かないことには始まらねえ。細けえことは実際に現地で教える。じゃあ行くぞ!」


「「はい!」」

「……はい」


 そう言って俺たちはヒースさんの指導の下、山の中に狩りに行った。道中、薬草の見分け方や、疲労の少ない歩き方など他にもいろいろ参考になることを教えてくれた。それに動物を狩る前には罠の設置や見分け方なども効率的に教えてくれて、とてもタメになった。


 そして無事、最低限の採取を終えたときにヒースさんがこういったのだ。


「そういや一昨日(おととい)、雨が降ったんだよな。ならまだアレが結構いるか?」


「……アレって何?」


「黒い嬢ちゃん、アレだよアレ、スライムだよ」


 クロナが何かを聞くと、ヒースさんがこう答えたのだ。


「ス、スライムですか……」


「どうしたんだ? コハク」


「そう、そのスライムだ。定期的に駆除しないといけないんだが、この時期は特にな。もう直ぐ夏に入るとあって、こういうジメジメした場所がお好みなのさ、やつらにとってはな。そういう訳で駆除に行ってみるか? ガキ共」


 このとき俺は気付くべきだった。……ヒースの黒い笑みに(※ユウにとってそう見えただけです)。


「いってみたいかな」


 そして、浅はかだった俺はそう答えてしまったのだ。


「本当に行くの? ユウ?」


「さっきからどうしたんだ? 経験になるなら行った方がいいんじゃないか?」


 このときのコハクの態度に気付いてさえいれば……。俺は……。


「よし! じゃあ行くぞ!」


「はい!」

「「……はい」」


 だけれど俺はそんなコハクの態度に気付けなかった。そして、俺たちはあの場所に向かうのだった。



「おそらく、この辺だな」


 しばらく歩くと、そこは山の中でも湿気が多そうな場所で、段々と夏に向かって温度が上がっている日中のせいか、結構ジメジメしていた。


「お前ら、こういう場所をやつらは好む。ここら周囲をよく観察してみろ。絶対いるはずだ」


 ヒースさんにそう言われ、周囲を観察する。そして、しばらくすると……。


「い、いました」


「お! 白い嬢ちゃん見つけたか! どれどれ……あー、あれで合ってる。坊主にもう1人の嬢ちゃん、こっち来い」


 すると、スライムを知っているらしかったコハクが最初にスライムを見つけたようだった。ヒースさんに確認を取ってもらい、どうやら合っているようだったので、俺とクロナも呼ばれてそっちに向かった。


「おう、お前らも見とけ。あれがスライムだ」


 コハクとヒースさんのところに向かうと、ヒースさんがスライムを指差して教えてくれた。俺も緊張して、その指差す方を見ると、


「……え? あれが……スライム、ですか?」


 俺の想像とは異なるスライムがいた。


「え? 本当にアレがスライムですか?」


「そうだ」


 自分の見たものが信じられず、ヒースさんに再度確認を取るように聞くものの、帰ってきた答えは肯定を示すものだった。


 俺としては、スライムといったら某有名なゲームに出てくる“ピキー”と鳴くスライムで、可愛らしいシルエットでポヨンポヨン飛び跳ねている姿を想像していた。


 だが、実際に見るスライムは、姿は不定形だし、地面をウネウネと這いずっている。おまけに体内には気泡のようなものがいくつも見え、まるでアメーバのようだった。


「いいかお前ら、スライムを倒す方法は2つある。1つはスライムの核を踏み潰すことだ。ただしこれをしてしまうとスライムの核が回収できない。それを克服したのが2つ目だ。2つめは、スライムに向かって塩を振り掛けることだ。これによってスライムの体内の水分が抜け、核だけが残る。ガキ共、塩は持って来ているか」


「はい」

「……はい」

「え!? 塩!?」


 そしてどうやらスライムは塩を掛けることによって干からびるらしい。……って! まるきりナメクジじゃん! 気持ち悪いよ!


 そして、塩の持参なんてあったか? だが、どうやらクロナとコハクは塩を持って来ているらしい。……なんでだ?


「ユウ、塩持って来てないの? あげようか?」

「……ユウ、塩あげる」


 ただ、優しい2人は俺に塩をくれるようだ。正直助かった。そう思って塩を受け取ろうとすると、


パシッ


「丁度いい機会だ。坊主、あのスライムを踏み潰して来い」


…………


 なんでだぁああああああああああああ


 え!? 塩あるんだからいいじゃん。振りかけようよ。あんなキショイの踏みたくないよ。


「いいから行ってこい」


「声に出てた!?」


「顔みりゃ誰だってわかる」


ドンッ


 気付くと俺はヒースさんに背中を押され、スライムの前に出ていた。


「!?」


 スライムの前に行くと、向こうはいきなり出てきた俺に驚いている様子だった。しかし、相手はモンスター。次の瞬間、攻撃態勢に入ったスライムはこちらに襲い掛かってきた!!


「っ!?」


 相手がモンスターであることを一瞬忘れてしまっていた俺は反応が遅れる。咄嗟に防御態勢をとり、衝撃に備えた。


「…………あれ?」


 しかしいくら待っても、来るべき衝撃が来ない。恐る恐るスライムがいた場所を見ると、


 ウネウネウネ ウネウネウネ


 ゆっくりとスライムがこちらに這って来ていた。


……


 スライム遅いな!!


 スライムが予想外に遅いことに安堵して、今度はこちらから仕掛ける。


 …………踏み潰したくない。でもヒースさんの方を見ると『踏め』と無言の圧力を掛けてくる。


 意を決してスライムに近寄り、核を踏み潰す。……そのとき目を瞑ってしまった俺は悪くないと思う。


グジョ


 何かが潰れる音がした。


「あ! バカ!」


 ヒースさんがそう言った気がしたが耳に入らなかった。

 踏んだ瞬間、スライムの体内の水分が飛び散り、足にピッ、と掛かってきたのだ。その瞬間、足元から電気が走るように体中を駆け抜けた。


「ひぃいいい」


「おい坊主! まだ終わってないぞ!」


 俺が悶絶していると、不意にヒースさんのそんな声が聞こえた。


 “終わってない”どういうことだ?


 そう思って周囲に目を向けると…………、


 ウネウネウネ ウネウネウネ ウネウネウネ ウネウネウネ ウネウネウネ


 と、至る所にスライムがいたのだ。


「ひぃいいいいいいいいいい」


 さっきの2倍増しで悶絶していると、


「いいか、よく聞け! スライムってのはな、核を的確に破壊しないと、飛び散った自分の体液すべてからスライムを生み出すことができるんだよ! だから、的確に核を破壊しないと……」


「しないと?」


「そうなる」


 そう言って指差されたのは俺の足元。本当に恐る恐る足元を見ると…………、


 ウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネウネうウネウネウネウネウネウネウネ


「い、いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」




◆◇◆◇◆




 ――そして冒頭に戻る。


 あの後、アメーバとナメクジ、プラナリアを足して3で割ったようなスライムが大量に増えたため、ヒースさんたちが塩を振ってスライムを倒してくれた。


 はっきり言って、その間俺はどうしていたかの記憶が一切ない。……まぁ、思い出しても悲劇しかないとわかっているので思い出そうとも思わないが。


 そして俺が大量にスライムを増殖させたことで、一気にスライムの核が取れた。ただし、ほとんどの核がまだ未成熟のものなので、売っても価値はないと言われてしまったが……。


 そんな訳で、後半の波乱に満ちた最初の狩りは、無事(?)終わりを見せた。


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