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08 狩りに行こう 

 あれから6年。11歳になった俺たちは、今日から山で狩りの実践に入ることになっている。


 初めて、訓練の成果を現実で活かせるとあって、昨日から興奮してしまって、あまり寝つけていない。


「……ねぇ、ユウ聞いてる?」


 狩りへの期待に胸を膨らませていると、クロナが横で俺の裾を引っ張りながら、何か聞いてきた。


「ん? ああ聞いてる聞いてる」


 実際は何を話していたか覚えてないが、ついつい素っ気ない返事をしてしまった。


「むぅ……」


「もう、ユウったら、ちゃんと話聞いてあげなよ。クロナが拗ねてるよ」


 コハクに話しかけられクロナを見てみると、そこには風船のようにほっぺを膨らましたクロナが横にいた。そして次第に涙目になっていくのが分かる。


「わっ! ごめんクロナ! ちゃんと話聞くから、ね?」


「……ほんと?」


「うん。ほんとに聞くから」


「…………ゎかった」


 どうやらクロナの機嫌を損ねずに済んだようだ。ホッ、と息を吐いて落ち着くことにした。さっきまでの自分は確かに興奮していた。この調子で山に入ったら怪我ですめばいいけど、大怪我をしたら大変だ。改めて気を引き締め直した。


「もう大丈夫かな?」


「あ、あははは……」


 どうやらクロナ先生はお見通しのようだ。



「よーし、集まったな! 今から山に狩りに行くが、気をつけろよ! 一応、1パーティーに1人指導者を付けるが、基本狩りの際には手出しはさせない。心して臨むように! いいな!」


「「「はい!」」」


「では、今から山の注意点と、出現する動物、モンスターの詳細について説明する! 一応、指導者もこの点は把握しているとはいえ、しっかり自分たちでも覚えるように。まずは――」


 孤児院の外の広場に集合すると、早速、元冒険者のゴッズさんから皆に対しての注意と説明があった。


 ゴッズさんは昔に冒険者を引退した人で、孤児院の近くに住んでいることあってこうして頻繁に孤児院に足を運んでは指導してくれる気のいいオッチャンだ。見た目は多少厳ついせいか、初対面の子供たちには怖がられてしまうが気付くと仲良くなっているのだから、子供の扱いに慣れていて、いい人なのだろう。


 そして今回のメインである狩りは、来年から冒険者登録できる12歳となる俺たちにとっては、それまでの間に冒険者の心構えと、実戦を通して冒険者となった際の依頼の難易度の判別ができるようにするためである。


 そのため今回の狩りは、元孤児院の冒険者や、ゴッズさんの元冒険者仲間の人たちの付き添いのもと行われる。


 今回行く山は、比較的モンスターが少なく動物が多い山となっていて、薬草類も豊富なため、初心者の指導には丁度いいのだ。ただし、少ないといってもモンスターが出現する可能性があるため、しっかりと警戒しないといけない。


 この世界では、モンスターと動物の区分けは明確だ。魔力を持つか持たないかだ。魔力を持つ生物を魔生物(モンスター)と呼び、それ以外と区別されている。モンスターに関しては動物、植物関係なくそう呼ばれている。


 そしてモンスターの厄介な点は、自ら積極性を持って外敵を襲うのだ。


 動物は警戒心が高く、慣れていないと遭遇できないのに対して、モンスターは基本的に攻撃的だ。勿論、コハクの前世のように、知性を持ち穏やかな種も存在するとは言うが、基本的には自らの欲望に忠実なモンスターの方が多い。


 そんなことを思い出しながら俺たちは、山へと向かっていった。



「では、各々パーティーに分かれてもらおう! パーティーは事前に組んだ通りにするように! ここでの変更は認められん! ……では、各パーティーに事前に連絡した通りの指導者が付くように。 今から山へと入る! 注意点に気を付けて、怪我なく戻って来い! 時間は今から夕暮れまでだ。いいな! 約束は守れよ!」


「「「はい!」」」


「よし! 行動開始だ!」


 ゴッズさんの気合いが引き締まる号令と共に、俺たちは準備に取り掛かった。途中、パーティーの変更のくだりで、いくつかの鋭い視線を感じたが気にしないことにした。


「クロナ、コハク、あとヒースさんも予定の確認いいですか?」


 なので俺は早速、皆を集めて作戦を立てることにした。そして、今回俺たちの狩りに付き添いで指導してくれるのは、ヒースさんという人だ。この人はゴッズさんの元冒険者仲間で、毎回この時期になると手伝いに来てくれているそうで、口調はちょっと荒いけど優しい感じのする人だ。


「ん? 早速、俺を頼るのかい?」


「はい。頼らせてもらいます」


 そして俺は、始まったばかりだが、早速ヒースさんに頼ることにした。というよりも頼らないといけない。


「……へぇ、理由を聞くがいいか?」


「まず最初に、僕たちはこの山に来たことがありません。それはヒースさんに関しても言える事かもしれませんが、少なくとも僕たちよりも経験がある人にルートや山の歩き方を教わらないと始まらないと思いました。次に、今回の狩りは、狩りと平行して薬草の採取などもしないといけません。さっきの理由にも当てはまるかもしれませんが、類似している薬草などもあった場合、僕たちだけじゃ判別できない可能性があります。そして最後に、これは全体的にいえることかもしれませんが、僕たちだけじゃ気付けない点があるかもしれないので、その補足というか、修正みたいな感じで指摘して欲しいと思いました」


 そう、今回の狩りだが、実際に俺たちが外で訓練するのは始めてだ。加えて来たことの無い山。どこに何があるかわからないし、山の歩き方、薬草の見分け方など、実践的な事は何一つわかっていなくて、全てが初めての体験となるかもしれない。そんな中で与えられた課題をこなすには、闇雲に探し回ることよりも、年長者からアドバイスを貰って行動したほうがいいと思ったからだ。


「…………んー、まあ一応合格だな。そうだな、お前たちみたいな年頃のガキ共は、後先考えずに突っ走る馬鹿が多い。その点、お前らはゴッズの言った『狩りの際には手出しさせない』って言葉をしっかり理解して年長者にアドバイスを貰おうとしている。その点は合格だ。ただ現実ってのはそんなに甘くねえ。もしこれを外で実践するなら、見返りをしっかり提示しろ。むこうだってそんなに馬鹿じゃない。逆に見返りなしで近寄ってくる輩には十分気をつけるんだな。ああ、後ついでに言っておくが、俺たち指導者はちゃんと報酬は貰ってるから、今日一日は心配すんな」


「見返り、ですか……」


「そうだ。見返りなしで近寄ってくる輩は、単なるお人好しか、後ででかいツケを払わせられることになる。最悪奴隷行きだってあるからな。気を付けろ。後、逆にお前らは、いつでも他人に聞けば答えを得られるとは思うなよ。他人から得た情報ってのは何かしらのフィルターが掛かってる。自分でしっかり見極められる眼を養うことをも忘れんじゃねえぞ。わかったな」


 一応、ヒースさんから合格点はもらえたが、まだまだ俺自身詰めが甘いところがあったようだ。

 そして言われてみれば納得する。確かに、何の見返りもなくこちらに都合の良い情報を教えてくれる人はそうそういない。逆に見返りなしで教えてくれる人のほうに警戒心を抱かなきゃいけないのは盲点だった。

 それに教えて貰ってばかりいては、いつまでたっても実力は付いて来ない。少しは危険を冒して進むことも大切なことがわかった。


 どうやら自分自身、意識してない部分で未だ日本の感覚が抜け気っていなかったのかもしれない。


 実際、前世ではたった20年ちょっとしか生きていなかったけど、学校では分からないところがあれば、先生が丁寧に教えてくれたし、道に迷っても、周りの人が教えてくれたり、示してくれた。勿論、日本でだって他人の悪意が存在していた。でもどこか他人ごとだと思っていた。


 でも、ここでは違う。世界が違うのだから当然そこに住む人の考えも違う。前世でだって、国によって人の考えや風習は異なるのだ。気付いて然るべきだった。


 ――甘えてたんだ。


 優しい孤児院の人たちに囲まれて、どこか勘違いをしていた気がする。日本にいたときと同じ感覚だった気がする。


 ――油断していたんだ。


 間違いなくここは、前世と異なり治安が悪い。それなのに、なんとなく大丈夫だと思っていた。冒険者になっても渡っていける。そう思っていた。


 でも違った。心構えからして間違っていた気がする。自分は周りより大人だと思っていた。周りより知識があると思っていた。


 ――そろそろ切り替えないとね。


 誰かにそういわれた気がした。


 もう日本に存在していた上川 裕はここにはいない。いるのはユウという1人のちっぽけな子供だ。徐々にでいい。この世界に溶け込んでいこうと思った。


「お? 表情が変わったな。さっきよりマシになったんじゃねえか? ……ああ、そうだ。後、言い忘れてたけど俺に敬語はいらない。気もち悪いからな」


「……わかったよ。よろしく、ヒース……さん」


「はっはっは! よろしくな! ガキ共」


 この日、少しはこの世界の人間に成れた気がした。


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