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NPC は お兄ちゃん!?  作者: ヒノキ
Another プロローグ
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05 Another プロローグ

「ねぇねぇ、加奈ってば!」


 本日最後の授業が終わったところで、親友の沙紀が話しかけてきた。


「ん~? な~に? 沙紀」


 今朝は朝練があり疲れていたせいもあって、話の最中に寝てしまっていた。すると、沙紀がジト目でこっちを見ていた。


「もうっ! また寝てる! 私の話聞いてた? だいたい加奈は――」


「あ~、ごめんね。聞いてなかった」


 沙紀の説教を半ば聞き飛ばしていると――


「だ・か・ら、後で加奈の家に行くって話!」


「えっ!? なんで家にくるのよ!」


 ――聞き捨てならないことを聞いた。


「だぁ~か~ら、とっとと夏休みの宿題を終わらせて、AWO 私と加奈と大地でやるんでしょ!」

 

 あぁ、そういえばそういう話があったっけ、と加奈は思い出した。確か夏休みに入って最初のころにベータ版が出る予定となっていて、私達3人は、そのゲームのテスターだった。


「あぁ~、ゲームの話ね。あと、家で宿題するのは構わないけど、お兄ちゃんいるよ」


 勉強しに来るのは構わないが、兄がいるから気を使わないかと心配していると――


「だからじゃない! お兄さんに勉強教えてもらえるし、会えるし!」


 ――どうやら沙紀のメインは兄に会うことらしい。


「はぁ~、程々にしないさいよね」


 兄はなんだかんだいっても、私の幼馴染を邪険にしたことはない。どちらかというと面倒見がいい方だ。だから、逆に兄に気を使わせたくなかったのだけれど……


「わかってる♪ わかってる♪ じゃあ! また後で!」


 どうやら沙紀は、来る気満々のようだ。はぁ、兄に声を掛けておこう。



「ただいま~」


「おう、おかえり加奈」


 家に帰ると、兄がリビングでくつろいでいたので、さっき学校で話した内容を、兄に伝えておいた。


「あ、お兄ちゃん、後で沙紀と大地が夏休みの宿題しに来るんだけど、もしかしたら、わからない問題聞きにいくかも」


「え? あ~、わかった。ただし、あんまり騒ぐなよ」


 案の定、兄は一瞬面倒くさそうな表情をしながらも、わかったと許可してくれた。


「うん。わかった。じゃあ沙紀と大地来るまで上の部屋にいるから。来たら教えて」


「ああ、わかった」


 伝えることを伝えた私は、さっき話題に出たゲームの内容を調べに自分の部屋へと戻っていった。


 部屋に戻ると早速パソコンを起動し、AWOの発売元のホームページに飛び、ベータテスター専用リンクを開いた。


 Another World Online 通称AWOとして知られているこのゲームは、最新版VRMMOだ。1つ前の最新版が5、6年前のとあって、ベータテスター希望の応募が半端じゃなかったのは記憶に新しい。そんな中で幼馴染3人が一緒なのは、ある意味奇跡なんだろう。ちなみに正式名称はAnother Worldなんだけれど、ベータテスターの間では何故かAnother World Onlineで通っている。


 このゲームの世界観は魔法と科学が対立している世界をモチーフにしている。どちらも高度な文明を持っているけれど、互いに主義・主張が折り合いを見せず、常に争いの火種が燻っている世界なんだそうだ。


 そんな世界で、私達プレイヤーの最初の拠点となる始まりの街がある場所は、魔法を掲げる大国と、科学を掲げる大国のちょうど中間、相互不干渉地域に該当する場所からスタートするらしい。魔法を学びたいのなら西へ、科学を学びたいのなら東へと行き、その国を拠点として力をつけ、このゲームで敵にあたる謎の第三勢力との戦いへと準備していくそうだ。


 このゲームの特色は、幅広い武器の種類と装備制限のないスキルの種類にある。武器の種類としては無骨な鉄製の武器から、近未来的な武器まで幅広く揃っている。スキルの方は本当に幅広くて、一覧を見たことがあったけれど適当にスクロールしても終わりが見えなかったくらいにはあった。

 そんなスキルの特徴だけど、その前に、このゲームでは職業制や可視化できるステータス値、レベル制をとっていない。じゃあ、いったいどうやって強化していくかというと、それがスキルの獲得なんだそうだ。スキルの獲得は、一応そのスキルに関連のある行動を繰り返していくことで獲得できるそうだ。そうやってスキルを獲得していくんだけど、説明を見る限り、それがどんなスキルでもなにかしらのステータスの上下に関わってくるようだった。

 さらに職業がないので、取れるスキルにも際限が無く、自分の理想の強化が可能なのがこのゲームの売りでもあった。その他にもいろいろあるけど、とりあえず、ゲームの概要としては、こんな感じだ。


 その後も、いろいろ調べていると――


「おーい加奈、友達来たぞー」


 ――下のリビングから、そんな兄の声が聞こえた。


「わかったー、今行く!」


 私は兄に返事をしながら、沙紀と大地を迎えに行った。




◆◇◆◇◆




 あれから5日後、学校も夏休みに入り宿題をする時間も取れた私達は、夏休みの宿題をあっという間に終わらせていた。


 そして現在私は、ベータ版開始までいろいろな機器の設定を終え、スタートまであと15分というところで機械の前に待機していた。ベータ版開始が深夜12時スタートなので、母にお願いしてゲームをする許可をもらうのに大変だったけれど、宿題を終わらせることと交換に許してもらったのだ。


(ユウ)、悪いんだけど明日の飲み物切らしちゃってたから、コンビニまで買ってきてくれないかしら」


「え~ 今から行くの~?」


「お願い、もうないのよ」


「はぁ~、わかったよ。行ってくる」


 隣の部屋で、なにやら兄と母が話をしていたが、私は興奮していてそれどころじゃなかった。


 そして開始まであと1分。機器の電源や、トイレに行ったかなど、いろいろなことを確認して、私は装置をセットした。

 そして、ようやく時間が来た。


 ――3、2、1 ピピッ


 深夜12時ちょうどに私はAWOの世界へログインした。



『ようこそAnother Worldの世界へ。ここからは――』


『それでは、この世界をお楽しみ下さい』


 長ったらしい説明を最後まで聞き、途中いくつかの質問に答え終わり、ようやくゲームの世界へと私は入って行った。



 ログインしてまず目に入ったのは、幻想的にまで綺麗な夜空だった。現実との時間は同期しているらしく、こちらも夜だった。ただ、目にする景色は人の多い都市では見られない程綺麗で透き通っていて、しばらくこの幻想的な世界に見蕩れていた。


 しばらく景色を堪能していた私は、思い出したように待ち合わせした場所に向かった。


 待ち合わせ場所に向かうと、すでに人が沢山いて誰がどこにいるかわからないほど混んでいた。しばらく探していると、人混みの向こうから知っている声がした。


「おーい! こっちだぞ!」


 その声がした方へ向かうと、案の定、約束していた2人がいた。


「いたいた。え~と……ダイとミサキでいいんだよね?」


「そうだよ。加奈はそのままカナなんだね」


「うん。大丈夫かなと思って」


「それなら、いいんじゃないか」


 集合場所には、既に約束していた大地と沙紀がいた。ただ、2人とも見た目が多少変わっていた。


 まず大地の方は、普段の黒の短髪・黒目に、スポーツをしているがっしりとした体格から変わって、金の短髪・金目で、体格はそのままというふうになった。もともと顔がいいということもあって、爽やかな外人さんみたいだった。


 沙紀の方はというと、肩の辺りで揃えてあった茶色がかった髪を、腰辺りまで伸ばし、目の色は黒から鳶色に変わっていた。あまり変化ないように見えるが、背は意外と高く170センチ近くあるので、普段の言動さえなければ落ち着いた美人に見える。


 ついでに私はというと、肩の辺りで揃えてあった黒髪に多少の赤みを入れ、一か所でまとめサイドテールのようにした。目の色は黒から完全に赤へと変えた。ついでに身長は150センチ後半とあって、平均的である。


「よしっ! じゃあ、とりあえず3人で行動するってことでいいんだよな?」


「そうだよっ!」


「うん。それでいいと思うよ」


 このベータテストの間は、前から私達3人で行動することを決めていたので反発も起きることなくすんなり決まった。

 いよいよ始まるとあって、沙紀のテンションはうなぎ登りだったし、それは、私達も同様だった。


「じゃあ、ひとまずフィールドに出てみるか」


「賛成でありますっ!!」


「うん。そうしよっか」


 戦闘に必要なスキルは、最初にこのゲームについて説明してくれた空間で、武器戦闘系スキル1個、サポートスキル1個、そして事前のアンケートや質疑応答での答えから、ランダムでユニークスキル1個が手に入る。

 それだけのスキルじゃ全然足りないけれど、ここがどんな世界か見てみたかった私達は、とくに準備もせずにフィールドに入っていった。



 あれから2時間、最初の1時間ほどはモンスターにも見つからずピクニック気分だったが、それから数分した頃、突然モンスターの集団に見つかってしまった。最初は戦闘しようとしたけど、戦闘なんて人生の中で1度も経験のない私達は、連携もなにもできずに逃げ出した。途中でサラリーマン風の格好をしたプレイヤーに助けてもらわなければ、今頃死に戻っていたかもしれなかった。ただ、なんとなく終始ダイに視線を向けていた気がしたけど……


 そんなことがあって、私達は現在始まりの街まで戻ってきていた。


「はぁ、はぁ 何なんだよこのゲーム! 仕様がリアルすぎんだろっ!」


「た、確かに身体能力は上がっているけど、見た目と違ってモンスターの迫力が凄いし、精神的に来るよ。あれは……」


「あぁ~! 華麗なる私のスタートがっ!」


「沙紀はちょと落ち着きなよ……」


「しかし、あのサラリーマン凄かったな……」


「そうだね。開始数時間も経ってないのに、あんなに強いなんて…… 一体どんな人なんだろう?」


「それよりこれからよっ! まだ私の華麗なる物語は始まったばかりなのよ! 主人公だって大抵最初は負けているんだし、私だって実はここから秘めた力で――」


「あー 沙紀戻って来い」


ドスッ


「GYAAAAAAAAAAAAA!!」


「なんでドラゴン風!?」


「…………はっ! 我は一体? ここは何処だ?」


「「……(ジー)」」


「……うっ、ごめん……ふざけ過ぎた」


「はぁ~ まぁ、俺もテンション上がるのは分かるけどよ、程々にしろよ……」


「うっ、わかったわよ」


 それからしばらく、沙紀がふざけてダイが注意しながらという流れで雑談を楽しんでいた。


 そして、そろそろ私達の次の予定を決めようとしたとき、それは起きた。


「よしっ! じゃあこれからどう行動し「あああああああああっ!」ようか……今度は何なんだよ……」


 私達は大声を上げた沙紀を冷ややかな視線で見た。


「あっ、ち、違うの……」


 私達の視線を感じたのか、沙紀は若干しどろもどろになり、顔がどんどん青くなっていく。


「じゃあ何なんだよ?」


 ダイがそう聞き返す。すると沙紀は、か細い声で……


「……グア…ト……できないの」


「は?」


「だからログアウトできないのよ!!」


「「え!?」」


 唐突な事に、私達は何の冗談だ? と思ってしまった。そして、沙紀の冗談のような内容が周りにも聞こえたのか、私達どころか周囲のプレイヤーまでもが石のように固まった。


「なっ!? おい冗談だろ! どうなってんだよ!」


 私達が立ち直るよりも早く立ち直ったプレイヤー達の1人が、メニュー画面を呼び出しログアウトの画面を確認したのだろう。驚きの声を上げ、次第にあたりに怒鳴(どな)り散らすようになった。

 すると、周囲の人達も次第に硬直から立ち直り、辺りが騒然とし始めた。

 悪いことに、沙紀と同様にメニュー画面を確認したプレイヤーが他にもいたのだろう。別の場所からも悲鳴のような叫びが聞こえ、やがてそれは波のように広がり、街全体が阿鼻叫喚(あびきょうかん)の地獄へと変わるのにそう時間は掛からなかった。これが全ての始まりだった。


◇ 


 あれから1時間が経過した。未だに街の騒動は収まる気配を見せず、むしろ悪化しているように見えた。 


 唯一の救いは、この世界がデスゲームのような世界じゃなかったことくらいだ。あの騒動の最中に、街の広場に死に戻ってきたプレイヤー達がいたからだ。けれど、その程度ではこの混乱が収まることはなかった。

 

 そんな、これからどうしようか考えている時だった。

 

 街の大通りから3人のNPCの人達が来たのだ。私以外気付いていないのかわからないが、混沌としたこの場で落ち着いた雰囲気を纏ったその少し変わった様子に、私はその3人から目が離せなかった。


 それまでは私達が騒いでいるせいもあってか、NPCの人達は近寄ろうとしてこなかったのだが、3人はどうやらその様子を気にした風もなく、むしろ不思議そうに現状を観察している感じだった。


 それに加え、彼らの容姿が私の目を引いた。1人は猫耳のようなものを頭から生やし、綺麗な黒髪を肩で揃えた美少女、もう1人は綺麗な白髪を背中辺りまで伸ばした、170センチくらいのモデルのような美少女だ、歳はどちらも同じく18くらいだろうか。そして最後にその2人を先導するように男の人がいた。見た目は平凡などこにでもいそうな感じで、後ろにいる2人と一緒にいると少々釣り合わない感じがする人だ。


 だけど私はその男の人から目を離せなかった。だってその人は――


「お……にい……ちゃん?」


――兄に瓜二つなN()P()C()だったからだ。



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