03 プロローグ3
ありきたりすぎて、何の捻りもない突っ込みを入れた(心の中で)俺は、サラリーマンのような男としばらく見つめあっていた。
………………はっ!? いけないいけない! 何で俺たちはこんなヤツと見つめあっているんだ!?
「見ちゃいけません!」
そういって俺は、2匹の視界にヤツをいれないように2匹とヤツを結ぶ直線の間に割って入った。
「ふぅ~、mission complete」
俺は決め台詞と共に、仕事が終わったあとのような達成感があった。
「いや終わってないですからねっ!?」
すると、サラリーマン風の男からなぜか突っ込みが入った。
「「「…………??」」」
「なんでそこで不思議がるんですかっ!」
何が言いたいのかさっぱりわからない俺は、男へと視線を向けた。
「……はぁ~、で何なんですか?」
話がややこしくなりそうなので、俺はそう切り出した。
「いや、あのですねっ! ……ふぅ~、まぁいいでしょう本題に入ります」
すると、サラリーマンの男は一瞬何か言いたげだったが、疲れた表情でそう話し出した。
「本題?」
「えぇ本題です。貴方たちがここまで来てしまった以上、ある程度事情を話さざるを得ません。ですが、私自身は話すことができません」
「じゃあ、どうするんだ?」
「ですので、これから貴方たちを、話すことのできる御方の元へと連れて行きます」
頭の固い役所仕事みたいだな、と思ったが素直に男の話を聞いてみることにした。
「連れて行く? 何処へ?」
すると男は自分の真上を見るように顔を動かした。
上? そう思って男の真上をよく見てみると、青空のどこからともなく糸のようなものが真っ直ぐ男へと伸びて来ており、簀巻きにさらに巻き付いていた。
……どっかの小説にでてくる、地獄からの救いの糸みたいだな。
そんな感想を抱きながら視線を男へ戻すと、無駄に爽やかな笑顔でこう言ってきた。
「では行きましょう」
こんな状態じゃなかったらきっとイケメンだろうに、悲しきかな、簀巻きの状態でいわれると滑稽に見える。
「早く掴まってください!」
そんな俺たちの微妙な雰囲気が伝わったのだろうか。男は顔を赤くしてそう叫んだ。しかし、ここで重要な問題が発生した。
「だが断る!! だれが男なんかに抱きつくかっ!!」
そう、相手は男だ。掴まれとは言われても、足にしがみついてもこの高さじゃいずれ落下しそうだ。それじゃあどこに? と言われても、首に掴まるわけにもいかないし、それは相手も御免願いたいところであろうが。そうなると抱きつくしか選択肢がない。しかし、相手は男だ。空しいにも程がある。そう考えていると男が・・・
「ッチ! …………いい男だったのに(ボソッ)」
何かを呟いた後、周囲の床ごと浮かし始めた。……なんだろう一瞬寒気がした。
「では、これに乗ってください」
そんなことを考えていると、男が俺たちに床に乗るよう促してきた。俺は少し考えた後、これ以上ここにいても事態が好転しないと判断し、素直にクロとハクを抱えて床に乗った。
「では参ります」
「ああ」「ニャー」「キュッ!」
◆◇◆◇◆
移動中とくに何か起きるわけでもなく、俺たちは目的地に辿り着いた。道中、高度のせいかもしれない、常に寒気がしたが…………
ついでに、あのサラリーマン風の男はもういない。ここに着いたときに、行くべき場所だけ示してどこかへ行ってしまった。
道は一本道だと教えられていたので、迷うことなくその場所へと辿り着いた。そこには、見上げるほど巨大な扉があり、下品にならない程度には豪華な装飾が施されていた。どうやって開ければいいか分からないが、とりあえずノックをしてみた。すると扉が勝手に開き、中から声が聞こえた。
『入って来て構いませんよ』
その声は静かなこの空間でよく響き、聞くものを安心させるような声であった。その声に導かれるように中へ、俺たちは入っていった。
少し歩くと玉座のようなものが見え、そこに座っている人物の姿も次第にはっきりしてきた。年齢は20代後半くらいで、柔らかい金色の髪が腰まで伸び、肌は白く透き通った、天女のような美女がそこにはいた。その女性は色気と母性を感じる様な笑みで俺たちを待っていた。
「ようこそ」
「ど、どうも」
俺は緊張しながらも、どうにか返事ができた。この広大な広間には2匹を除けば、俺とこの女性しかいないのだ。
「あ、あの、ここはどこなんですか?」
俺はまず、この不思議な世界のことについて質問した。
「えぇ。それらのことについて私から答えられる範囲で説明しましょう。まず、あなたはこの世界がどんな場所だか理解していますか?」
そう言うと、女性は俺に問いかけてきた。
「さっきまでいた塔の様な場所は、やはり死者が行き着く場所なのでしょうか?」
俺は、あの白一色の世界を歩いているときに思った考えを素直に言った。
「えぇ。その認識で構いません。補足するなら数多な世界の生き物の魂をリサイクルするような場所ですね」
「リサイクル?」
「えぇ。その生き物であった魂を一度、塔と完全に同化させることにより、どこか、生き物の存在する階層の生き物として転生させることができます。その際、人だったから次も人、ということは起きず、植物や獣、もしくはそこにいるドラゴンの様な存在として生まれる可能性があります。もちろん同化することにより、余計な情報は全て洗い流され、魂の最少単位まで戻すので前世の記憶を引き継ぐこともありません。その点リユースよりリサイクルでしょう?」
「は、はぁ」
その答えを聞いたとき、俺はこの女性が人とは程遠い存在だと確信した。そして女性は話を続けた。
「そして、今私達がいる場所は数多ある世界を監視する場所であり、同時に世界を創造する場所でもあります。言い換えれば世界の管理所のような場所です」
「………………」
もはや俺はこの女性に対して言葉を発していいのかすら判断できなくなった。俺の勝手な想像だが、この女性は神と呼んでいいのではないかと思ってしまったのだ。
「あぁ、すいませんね。こんなこと言われたら萎縮してしまいますよね? ですが、今この場では私と貴方たちしかいませんので、もう少し楽にして構いませんよ。話も進みませんので」
女性は俺の微妙な雰囲気を感じたのかそう言ってきた。
できねぇよ!! なんて内心思いながらも、確かに話が進みそうにないので俺は、恐る恐る女性の言葉に相槌を打った。
「では、引き続き話をします。まず貴方たちの現状ですが、これは本来ありえないことです!」
「え!?」「ニャ!?」「キュッ!?」
女性の言葉を聞いた俺たちは一様に驚いた声を上げた。というかそこの2匹話を聞いていたのか。衝撃的な話が多すぎて存在を忘れていたよ。というか君たち言葉理解できたの? いや違うな、床に涎が垂れている。寝てたなこいつら。大方、女性の声のトーンが一瞬上がったのにビックリしたのだろう。俺もそうだが。まぁ下手に暴れられるよりいいな。もう一度寝ていてくれ。
「この現状についてある程度はこっちでも理解しています。ですが一度こちらでも確認させてください」
「えっ? あっ、はい大丈夫です」
2匹のことを考えていたら女性が話を続けていたので、焦りながらも素で返事をしてしまった。
「では失礼します」
そう言うと女性は俺に手を向けた。その瞬間――
「ぐっ!?」
――俺の体が今まで感じたことのないほど重く感じ、それと同時に体の中を何かが通り抜けたような感じがした。
「………………ほぅ、これは…………なかなか面白いことをしてくれたな」
その瞬間、女性が何か呟いていたが、俺は力がうまく入らず、床に膝をつきそうになってしまい内容が聞き取れなかった。だが、女性のそれまでの表情が一瞬変化したのを俺は見逃さなかった。
「では、貴方たちに事情を、最初から説明しましょうか」
女性は表情を戻すと、先ほどまでの柔らかな雰囲気で俺たちに語りかけてきた。